ロンドンパラリンピックフルマラソン競技の様子

視覚障害者ランナー伴走

視覚障害者ランナーの伴走を始めてみませんか

月日の経過は早いものです。その早い歳月の流れの中でやはり、平成10年(1998年)3月5日~14日に行われた第7回冬季パラリンピック長野大会、この大会はアジアで初めて開催された冬季パラリンピックでもありますが、この大会を境にして、これ以降急速に障害者スポーツが人々の関心を呼び、メディアの話題に登るようになったと感じます。

そして何よりそれ以降障害者自身が、私も何かスポーツをやってみようかとの目的で家の外に出かける機会が増えたのではないでしょうか。それは漠然としたものではなく、長野パラリンピックでの選手らの頑張り、活躍、そしてその賞賛を目の当たりにして、進む先の目的、目標、そしてやれば出来るという可能性を具体的に提示してくれたという意味では大変に意義のある、インパクトの大きいものがあったと思います。

車椅子ランナーも含め、障害者の部を設けるマラソン大会も多くなってきていますし、例えば市民ランナーのための「ランナーズ」誌などでも時々障害者ランナーに関する記事を掲載するようになりました、又近年のパソコンなどによるインターネットが身近なものになった事により障害者にとってもやってみたいスポーツの情報収集が容易になりました。

これらの動きを肌で感じていた私にとりましても、何か行動をしなければとの思いでいましたら、私が日頃トレーニングに参加させていただいているアトミクラブ (二百人以上参加してい ます) の会報に、視覚障害者ランナーの伴走に関わる作文を掲載していただけるという事になりましたので、「私が視覚障害者ランナーの伴走を始めた経緯とその後の取り組みについて」というタイトルで作文を作成し、アトミクラブ会報に掲載させていただきました。
後に同じ作文をこのサイトにもアップしました。一人でも多くの方が伴走ボランティアに参加していただければとの思いで、体験談風に仕上げてありますのでぜひお読み下さいませ。

視覚障害者の方々にとりましてもウオーキングしてみようか、ジョギングをしてみようかと考え る方が増えるということは、出来れば身近なところに伴走をしてくれる方が住んでいれば 走ることは容易に出来るようになりますし、記録向上を目指す方にとっても練習量の増加につなげることが出来るわけです。

そして、より速くなりたいと願ってトレーニングしている伴走者との交流により、今まで知らなかった練習方法を取り入れたり、より強い練習をすることなども可能になるでしょう。多くの方に伴走ランナーとして参加していただき、 又視覚障害者の方も、今まで走ったことがない方も含めて走る楽しさを知っていただいたりと、それぞれのレベルでランニングライフを楽しまれることを願ってやみません。

下掲の作文の中で最も訴えたかったことは、伴走への第一歩を踏み出された皆様が、最初の頃はもう無我夢中ですし一生懸命ですから、安全に視覚障害者ランナーを誘導して走ろうとするのが精一杯ですが、月日の経過と共に次第に伴走に慣れてくるにつれて、「良い伴走をしよう、完璧に伴走をやろう」と考える伴走者ほど、 上手く伴走できないと悩み、そのあげくスランプに陥ったり、壁に突き当たってしまうのではないかと体験的に感じた次第です。

ですから実際に今、そうした壁に突き当たっていると感じられている方もいらっしゃるかもしれません。そうした方々は伴走に自信を持てない日々を過ごされていると思いますが、ぜひその壁に対して腐ることなく投げることなく、伴走を続けていただくことを希望いたします。
是非その壁を乗り越えてください。その壁を乗り越えた先にこそ、その人らしい、個性溢れる伴走の姿があるものと考えます。

伴走は、例えば二時間程の講習を受けただけでもそこそこ安全に誘導して伴走はできます が、人と人の応接であるが故に、非常に奥が深いということも言えます。
その奥深いところにゆく過程でスランプが、壁がのしかかってくるのではないかと考えられます。
十人伴走者がいれば、十種類の伴走者の姿があるといえますし、そうあっていいはずです。

車の運転でも道路法規を守って運転すれば、車の中では音楽を聴きながら走っても良いし 恋人と会話を楽しみながら進んでも良いわけです。伴走も基本的な、あるいは共通する道路情報や路面情報を伝える語りかけは、共通の方式を持って語りかけなければなりませんが、 そこから先のプラスアルファの部分は、大いに個性的に工夫して伴走するのが理想的です し、そうあるべきだと考えます。

そこのプラスアルファの部分にこそ、私達伴走者の創意工夫の余地がありますし、そこのところがうまく 決められれば、ああ今日伴走して良かったなと、心から思えるのではないでしょうか。

伴走者一人一人に伴走ボランティアを始めてからの様々な苦労、喜び、ストーリーがあるのではないでしょうか。その中のある一人の伴走者の体験談として読んでいただければこ の上ない喜びです。(独り言のような文章になっていますがごめんなさい)

伴走ボランティアの素晴らしさは、視覚障害者ランナーと同じレベルで走る喜びを分かち合えるということです。まして自己ベスト記録が更新されたり、マラソン大会などで入賞などしようものなら本人よりも喜びが大きいかもしれません。

どうぞこのような、ボランティア活動としても打ち込むに値する、視覚障害者ランナーと共に走る伴走ランナーが一人でも多く増えることを願っています。(^o^)

 

「私が視覚障害者ランナーの伴走を始めた経緯とその後の取り組みについて」

【平成12年(2000年)9月3日記】

ランニングが大好きでマラソン大会などに数多く参加されている皆様にとっても、視覚障害者ランナーの伴走をされた方は、まだ比較的少ないと思われますが、一方で視覚障害者ランナーが伴走者と共にロープを介して走っている姿を見かけた方は多いと思います。

今でこそ一般ランナーの中に溶け込んで走っているその姿も、私が伴走ボランティアの存在を知り、興味を持ち始めた十数年前の頃は、マラソン大会に行ってもまず視覚障害者ランナーを見かけることはありませんでした。

障害者を積極的にスポーツへ参加させよう、楽しんでもらおうとの意識がまだまだ低く、半ば公然と視覚障害者を含め障害者の参加拒否を表明する大会も少なくなかったのです。
時は移り、ここ数年は大会での門戸も開かれ、又障害者の方々も積極的にスポーツを楽しもうとする方が増えて、大変喜ばしい環境が整ってまいりました。

それにしても一昔前は伴走をしたくとも、伴走ボランティアの情報が極端に不足していました。予てより伴走に関心はありましたが、どこへどの様にアプローチしたらよいかも解らず、ただいたずらに時は過ぎていきました。

そんな中、さすがというべきか、お見事と言うべきか、平成8年頃だと記憶していますが、皆様の中にも定期購読している方も多いと思います「ランナーズ」誌が、視覚障害者ランナー 及びその伴走ボランティアについて特集を組んだのです。強く関心を持っていたこと もあり、その記事は即座に私の目の中に飛び込んできました。

そこには日本盲人マラソン協会という組織を中心にして、増えてきた視覚障害者ランナーのための支援体制をどのように整えていくか、又この時点の視覚障害者ランナーに与えられている環境、伴走ボランティアが大変不足している、等々の記事が写真入りで紹介されていました。

それと共に、毎月第一日曜日に渋谷区の代々木公園で視覚障害者ランナーと伴走ボランティアとの合同練習会が開かれているとも書かれていました。私は早速連絡先を問い合わせ、日時を確認して、興味半分、不安半分で代々木公園に出かけていきました。

さわやかな朝日がさし込む深い森の中に三十人程の人々が集まっていました。
私をリーダーの方が紹介して下さり、初めての伴走であるということで比較的ゆっくり走られる視覚障害者の方と一緒に走ることになりました。基本的な伴走ルールを教わり、実際に走り出したわけです。

初めて握る伴走ロープにひどく緊張してしまったようで、その時コースを含めてどのように走ったのか記憶していませんが、視覚障害者の方に大変気を使っていただいた事だけは良く覚えています。客観的にみれば二人が並列に走ってはいましたが、どう見ても私が伴走されているような走り方であった事でしょう。
しかしながら兎にも角にも、この日をもって私の伴走ボランティアはスタートしたのでした。

次の日曜日、私は妻と共にロープを握り、公園の芝の上に立っていました。勿論私の目にはアイ・マスクがつけてあります。目が見えないとはどういう事なのか、そして目の見えない人が走るときは何を頼りに何を 感じながら走るのか、視覚障害者ランナーの立場を心理面や肉体面、伴走者との関係に渡って徹底的に探求していこうと決意したのです。

この日、妻の伴走により約2時間にわたってあらゆる路面状況を想定してゆっくりと右に左に曲がり、そして上り坂下り坂、路面のよい場所悪い場所と走り、最後につまずいての転倒。それも最初はそっと倒れ、やがて激しく転倒を体験してみました。
これら一連の体験の中で感じ得た事は、視覚障害者の方々が日頃苦労されている苦難のほんの一部かもしれませんが、その本質を垣間見る事が出来たように思います。

長年にわたって車の運転をされている方なら、高速道路を走行中、「濃霧注意」という事前の警告表示はあったにしても、目の前に突然霧がかかって来て、そして急に霧は濃くなって目の前がほとんど見えなくなってしまうというあの怖い体験は二度や三度はおありだと思います。あの恐怖感こそ、程度の差はあっても視覚障害者ランナーが走るときに常に抱えている恐怖感そのものなのです。

この移動中に突然障害物にぶつかるかもしれないという恐怖感こそ、視覚障害者ランナーが常に頭に抱えて離れない苦難なのです。そのことをまず最初に強調しておきたいと思います。

従いまして、これから伴走ボランティアをやってみようとお考えの方に提案いたします。
ロープを用意し、目隠しをして伴走をどなたかに頼んで是非自宅の周りなどを走ってみてください。そして無理のない範囲で転倒までしてみてください。そこで得られた恐怖感の体験こそを、伴走ボランティアを始めるに際しての精神的原点にしてもらいたいのです。

皮相的にみれば、伴走とは視覚障害者ランナーよりも走りにパワーのある人が、ロープで誘導して安全にゴールまで導くということになりますが、視覚障害者ランナーの立場から伴走されて走るということは、最初から最後まですべて恐怖感との戦いであり、その恐怖感が大きければ、苦しくて怖くて走りが楽しくないし、恐怖感が減ってくればリラックスして走れるし スピードもぐっと上がってくるというものです。では恐怖感の減った分増えてくるものは何かといえば走りの集中力です。

私も多くのマラソン大会に参加しますが、その中で予想外に走りに集中できるときがあります、その時はきまって苦しくはあっても常に体全体で、全力で走れるものです。そして持てる力の全てを出し切ってゴールしたあとは、実に心地よい満足感に浸れるものです。
走りに集中できればこその快走というものでしょう。

視覚障害者ランナーは修行のために走っているのではないし、恐怖を体験したいから走っているのではないでしょう。伴走もこの恐怖感を出来るだけ減らして、より多く走りに集中してもらうという事につきると思います。

私流の表現で伴走を定義すれば、「伴走とは、お互いの信頼関係のもと、相対的に恐怖感の割合を減らし、走りに集中する割合をいかに増やすか」 という表現になります。

確かに、広い海の上を走るのであれば、恐怖感の話をする必要はないでしょう。
目の前すぐにも障害物があるかもしれない、ぶつかるかもしれないという不安から発する恐怖感は、きっと本能と関係していて、本来の身体機能が正常に作用しているということなのでしょう。だからこそ、伴走者は、あらゆるテクニックを駆使して恐怖感を生じさせ得ないように努める必要があります。

伴走は、細かい細かいノウハウの集積によって成り立っています。そのひとつひとつの細かいノウハウを習得するには、私たちの人生と同じように試してみて成功し、あるいは失敗して落ち込んでとそのくり返しでもって、伴走者としてのノウハウと直感力を積み上げていくことになります。

伴走のノウハウを細部にわたって記することは紙幅を大幅に増やしてしまいますので、又 後日の機会に譲りますが、私が伴走をするに際し最も重視し実行していることを一つだけ 書いてみたいと思います。

御存知のように視覚障害者ランナーといっても、実に様々なレベルの方がいらっしゃいます。まだ走り初めて間がなく、のんびり走るのが楽しくてしょうがない方から、色々な大会に出 場するのが夢で一生懸命走り込んでいる人、さらにはパラリンピックなどへ選抜され日本代表選手 として出場する人など本当に様々なレベルの方が居られます。

伴走をするとき、その各レベルに応じて語りかける言葉も微妙に、或いははっきりと違ってくるわけです。例えば、まだ初心者レベルの女性の伴走をする場合、まっすぐな道が続いてリラックスして走っている時などに、道路脇に草花がこぼれんばかりにたくさん咲いている。そしてそれが数百メートル続いて咲いているのでとても見事ですよと語りかける のは、ほほえましくもあり、女性に喜んでもらえる語りかけになり得ますが、それと同じ話を、今日 この大会で自己ベストを出すぞと、気合いの入っている視覚障害者ランナーに、同じ場所で同じ話をして、花の色の細部まで説明しても、その人には必ずしも喜んでもらえないかもしれません。

かえって走りの集中力をそいでしまう恐れもありますし、その選手にとってはもっと優先して語りかけなければならないことが他 に沢山あると思えます。ただその人が、毎年参加しているからとの軽い理由で出場し、まだ 呼吸もあまりアップアップになってなければ、私も路肩に咲き乱れる花の話をする可能性はあると言えますが…。

このように視覚障害者ランナーの走力レベルも様々であり、例え同じ選手であっても大会における参加目的も 走る意欲も集中力も毎回のように異なり、又勿論その日の体調も会ってみなければ解らないし、さらに走り出してみなければ、伴走者が予想した体調や意欲さえも正しかったのかどうか解りません。

何時の頃からか、私の伴走への取り組みも、完全に壁に突き当たっている事を認識しました…。

これらのあらゆる状況に対応できていないのです。
適切に応接・対応できないから自己満足的な語りかけしかできない、従って語りかけに自信を持てない。そしてもっと重要なことは、考えて から語りかけたのでは、もうタイミングを逸してしまうことが少なくないのです。

それに 何を話そうかなどといつも考えながら走っていると伴走すること自体が苦しくてしょうがない。それこそ私自身がリラックスして走れないという事態になってしまいます。

もう視覚障害者ランナーの伴走はやめにしようかと考える日々が続き、伴走の依頼があっても足取り重く出かけることが多かったのです。伴走が上手くできないと思える、これらの苦悩はなかなか頭から消えず、あれこれと試行錯誤をくり返して打開を模索していましたが、伴走に自信を持てない時期が長く続きました。

しかし神は私を見捨てませんでした。
伴走を終えての帰り道、フッと 「伴走をしてやるのではなく、視覚障害者ランナーと同じ気持ち で走ったらどうだろうか」 という考えが頭に浮かんだのです。

この気づきにより、頭の中にあったモヤモヤが急速に消え去り、伴走に対する迷いがなくなっていきました。そして何より伴走に自信が持てたというよりも、伴走に全く気負いがなくなり、すごく気楽に走れる ようになったのです。

あの時以来、更にあれこれと試してみて、ある一つの型を作ることに成功しました。
大げさにいえば一つの儀式です。それを皆様にそっとお教えしましょう (そんなおおげさなものではないか…)。

“視覚障害者ランナーと同じ気持ちで走る” ということの成果は、私流の言葉で直裁的に表現するならば、 「自分の心を無にして、相手の精神的レベル、体力的レベルと同じになれば、語らなければならない言葉や、伝えなければならない情報は、考えなくとも自然と口をついて出てくる」 という表現になります。

これを実現するために、朝出会ってからレースがスタートするまでの二時間程の間、 ひたすら自分の心を静め、そう多くはない相手との会話や動きの中で鋭く相手を分析し、 過去の経験を加味して、精神的レベルと体力的レベルが相手と同じになるように持っていきます。

私は、この二時間程の間の心の動きが、後の伴走の善し悪し、質の全てを決定するものと考 え、皆様が考える以上に大変な集中力でそのことだけを考え、見つめていきます。そして完全に相 手と同じ精神的レベル、体力的レベルになっていると強く確信して、スタートを切ることにして いるのです。

確かに、私が無の境地になっているかどうかは道元禅師に尋ねてみなければ本当のことは わかりませんし、わずか二時間の間に相手と同じ考えになるなんていうことは、精神科の お医者さんからみたら笑われてしまうかもしれません。しかし思うような伴走が出来ず、 長く壁にぶち当たり、そのことに苦悩し底辺をはいずり回り、そしてその谷底が深かったか らこそ、その谷底から拾い上げた小さなヒントを、私は大切にしたいのです。

五年後、十年後また違った形で伴走の理想を追い求めているかもしれません。それはそれ で喜ばしいことと思います。我々の人生と同じように、伴走のやり方が成長している証なのですから。

最後になりましたが、主役である視覚障害者の方々の事を少し書いてみたいと思います。
一口に視覚障害者といっても十人いればその数だけの眼の障害があるといってもよいほど実に様々です が、視覚障害者マラソンの観点から分類すれば(まだ世界的にみて完全に標準化された分類はないようですが)細かい規定は抜きにして、B1クラス・B2クラス・B3クラスの三種類に分けるのがわかりやすいかと思います。

B1・B2クラスは重度の眼の障害を持ったクラスで当然に伴走を必要とする方々です。
B3クラスは眼に障害や病気はありますが、伴走を必要としない、つまり単独走でもほぼ重大な危険を伴うことなく走れる方。従ってこの方々は一般のマラソン大会で視覚障害者とし て見つけることはほとんど不可能です。

職業選択の幅を狭められてしまうほどの眼の障害や病気を持った方々のうち、B2クラスは、微かに或いはぼんやりながらもものが見える方々です。
このクラスでは、大会などで は大勢の中走り抜けるのは大変危険ですし、スピードも速くなりますので必ず伴走をつけ て走りますが、日常の練習や長距離の走り込みなどで、ゆっくりと走るのであれば、道路の 白線を頼りに一人でも何とか走れたりする方々です。

やはり圧倒的に苦労されているのは、B1クラスの全盲の方々です。
例えば光を感知する 事が出来れば今が昼なのか夜なのか人に聞かなくてもだいたい判断できますが、その光さ えも全く感知できない人も大勢いらっしゃるのです。それらの方々は自分が垂直に立つこ とも難しいかもしれません。彼らにとって光さえも大変に重要な情報なのです。その全盲の彼らがスピードを出して走ろうとしているわけです。

私達ランナーは少しでも速くなるように良いと思われる情報を見つけては、試してみてその成果を期待しますが、それは、ランニングフォームについても同じ事が言えるでしょう。

考えても見てください。その理想的なランニングフォームを身につけようにも、生まれなが らの全盲の彼らは自分のフォームさえ一度も見たことがないのです。理想的ランニング フォームを身につけようとする時いかに困難が待ち受けているか御理解いただけるでしょう。

ランニングフォームの映像を見たこともないので頭に描くこともできない、従って基準とするものがないから比較することが出来ない。実際に手取足取りで、一緒になってフォームの一齣を取り出して動かしてみると、それはその時にうまく理解してもらうことが出来 るときもありますが、その動きが連続運動の中で理解してもらうようにするともうだめで す。本当に難しい事です。

視覚障害者の方にも苛立ちがきます。ランニングフォームは連続され た動きの中でこそ身につくものであり、身についている筋肉群によってフォームはある程 度確定はしてしまいますが、同じ事を来る日も来る日もくり返し反復し、そして頭でイメ ージして少しずつ改良していくものでしょう。それが出来るのも常に頭の中に理想的ランニングフォームが映像としてあればこそという、意外な発見を私たちはするでしょう。

このランニングフォームにとどまらす、日常のランニングをするための安全な場所探しか ら始まり (二人並んで走るため交通量の多い道路は大変リスクが大きいのです)、その練習 をするために欠かせない伴走者を探して伴走を依頼する。

少ない練習時間の中で、少しでも成果が上がるようメニューを考え、そして一生懸命トレーニングする。大会参加であれば、今まで一度も行ったこともないところへ、電車などを乗り継ぎ大変な時間をかけて移動すること。そして大会会場では、着替えやトイレといった事も、実際に視覚障害者のその動きを追うと、本当に大変だと思えますし、時間もより多 く必要とします。

マラソン大会の象徴でもある一本のスタートライン…。
そこに至りて立つまでの、視覚障害者ランナー達の苦難と努力の、ほんの一部を紹介させていただきました。どうぞマラソン大会に参加して、視覚障害者ランナーとすれ違うときには、今まで以上に惜しみな く賞賛の声を掛けてやってください。
彼ら彼女らこそ、ランナーという枠を越えて、人生の真の勇者であり勝者なのですから。

追 記
マラソン大会の会場で、視覚障害者の方が盲導犬と共に参加しているのを見かけることがあります。そんな時はぜひワンちゃんの目をのぞき込んでみてください。
おだやかで、温和なその瞳にあなたもきっと感動しますよ。 (^o^)

中澤修平

 

 

 

「視覚障害者ランナー伴走ノウハウ解説」

視覚障害者ランナーの伴走のやり方などを詳しく解説した本が、当時も今も周囲を見渡した限りでは販売されていないようなので、私がこれまで体験した範囲ではありますが、視覚障害者ランナーの伴走のやり方を整理してまとめてみました。

伴走の重要な核心部分は押さえたつもりですが、もちろん教科書みたいな整然とした文脈は出来かねますし、標準的な伴走のやり方の解説というよりも、私自身の経験に基づく、個性の強い伴走のやり方の解説となります事を御承知下さいますようお願いいたします。

印刷注意:
この伴走ノウハウ解説文は、A4用紙で106枚に相当します。全文印刷はご注意下さいませ。

 

【 目次 】 ※目次をクリックしますと対象ページに飛びます。

はじめに
第一章 伴走の世界にようこそ
伴走とは奥深く、限りなく広がった世界です
視覚障害者ランナーをサポートする為の注意点
     1,障害者の目となってサポートする
     2,耳などからの情報収集を妨げないようにする
     3,ウソを付かない(?)
視覚障害者ランナーHさんと私とあなたの三人で模擬大会参加 大会名は?
スタート前にプログラムをしっかりチェック!
大切な“スタートとゴールの練習”
スタート地点へ移動する前に装備点検を忘れずに!
スタートポジションのとり方
打ち合わせ漏れはありませんか?もう一度チェック
     1,視覚障害者ランナーの右側で走るか、左側で走るか
     2,伴走者の指示に対し「はい」と返事をするか、しないか
     3,ライバルの位置関係を積極的に伝えるようにする
     4,初顔合わせの場合は、大会前に一度会って練習をする

第二章 伴走の実際
いよいよ霞ヶ浦マラソン大会のスタートです!!
ここで、一気に伴走ノウハウを解説!!
     1,ロープさばきの基本原則
          A,リズムを狂わすような動きや力をロープに加えない
          B,突然に強くロープを動かさない
          C,小さな危険を予感したなら、ロープをたぐり寄せる
          D,進行方向をロープにより明らかにする事が最も重要
     2,カーブの曲がり方
     3,緩やかなカーブの曲がり方
     4,直線道路の場合、直線であると伝える
     5,坂道での声のかけ方
          A,上り坂と下り坂がセットになっている坂道
          B,上った以降はずっと水平道路が続いている坂道
          C,微かに上っているような緩やかな坂道
          D,坂道に共通する注意事項
     6,何メートル手前で予告の声をかけるか
     7,予告の為の予告とは?
     8,1キロ毎のタイムの伝え方
     9,ライバルの走りを戦略的に伝える方法
     10,給水・給食の取り方
          A,確実に給水・給食を手渡す
          B,出来る限りペースを落とさないように通過する
     11,ランニングハイに気をつけましょう
     12,中間点で伴走を交代する場合のロープの渡し方d
伴走を交替し離脱していきます
フルマラソン後半の注意点
     1,足が上がらなくなるので、細かい段差に注意する
     2,動作指示の言葉が確実に伝わるようにする
     3,ペースダウンに気付かない場合がある事に注意する
     4,ゴール後走りが止まるまで十分に注意する

第三章 伴走のこれからの課題
伴走に対する問題提起・ルールの確立について三題
     1,視覚障害者ランナーの走りをどこまで管理するか
     2,ボランティア活動としての伴走
     3,サブ伴走の制限などのフェアなルール作り

第四章 伴走技術のさらなる向上を目指して
より優れた伴走をする為に
     1,伴走の原点に帰る
     2,自分で自分の伴走を観察し評価する習慣をつける
     3,走力的レベル・走る目標レベルを合わせる

いよいよ最後になりました
編集後記

 

 

視覚障害者ランナー伴走ノウハウ解説

【平成14年(2002年) 6月01日記】

はじめに

振り返ってみますと、1998年に長野冬季オリンピックに続いて同パラリンピックも開催されましたが、もうすでに4年が経過しているんですね、本当に時節の移ろいは早いものです。そのパラリンピックでは、障害を乗り越えた逞しい選手達による熱戦につぐ熱戦が、多くの方々に感動を呼び起こし熱く燃え上がらせてくれま した。

その感動をして障害者スポーツが関心を呼ぶ事となり、多方面でそれに関連する催事や掲載記事などを目にする機会が増えてきましたね。もちろん障害者の方々もより大きく刺激されまして冬季パラリンピック以降にスポーツを始められた方も多いのではないかと思いますし、又そ れを支えるボランティアの方々も比例するように増えているのを実感しています。

私も走る事が大好きで20代の頃からマラソントレーニングを続けてまいりましたが、「ランナーズ」誌により視覚障害者ランナーの伴走者が足りないという現状を知り、代々木公園に馳せ参じて講習を受けまして、これ以降視覚障害者ランナーの伴走に関わって参りました。
年を経る毎に強く感じる事ですが、年々視覚障害者ランナーと伴走するランナーを見かける機会が増えているように思います。

トップレベルのランナーはパラリンピックのマラソンなどに出場するような方から市民マラソン大会でのんびり楽しい気分で走る事に喜びを感 ずる人々まで様々なレベルにおいてそれぞれに楽しまれていますね。市民マラソン大会に参加して、視覚障害者ランナーを見かける事も珍しくなくなりました。

そんな時に私も伴走をやっている関係で走っている伴走ランナーの伴走のやり方を見てしまうのですが、驚くことに実に様々なやり方で伴走をしていらっしゃいますね。

私自身の伴走もかなりの個性派だとは思いますが、なぜそのようになるのかと言えばやはり自分のランニングへの思い入れや総体的な走りへの、その人なりのこだわりから発する性格の表出がそれをさせるのかも知れません。

伴走へのこだわりは私の走りへのこだわりと共通していますし、視覚障害者ランナーをも自分の走りへの思いと共通するようなこだわりを持っている方がより精神的に、いわゆる「馬が合う」ような印象があります。そのような思いから結果として十人いれば十通りの伴走を見ることになるのかも知れませんね。

私も視覚障害者ランナーの伴走を長く続けていますが、最近は私の回りにも「伴走をやってみたいと考えているんだ」という方がチラホラいら っしゃるようになりました。
視覚障害者ランナーの役に立ちたいとするその志に心より敬意を表したいと思いますね。

始められてから最初の頃などは、ぜひお二人で会話を楽しみながらのランニング等を楽しんでいただき、少しずつ速いペースで走られるランナ ーに対応出来るようになりましたら、特定の方などとペアを組んで一緒にトレーニングに励んだりするような関係に発展しましたら素晴らしい 事ですね。そのような関係を長く続けたなら改めて伴走の奥深さに気付いて、益々虜になってしまう事でしょう。

このように多くの方々との素晴らしい交流が待っている視覚障害者ランナーの伴走に末永く取り組んでいただき、視覚障害者ランナーと共に生 涯にわたってランニングを楽しんで頂きたいと願うものです。

そんな中、伴走のやり方などを詳細に解説したものがちょっと見渡した限りでは無いようなので、私が長年に渡って体験した範囲ではあります が、伴走のやり方を整理してまとめてみました。

もちろん、教科書みたいな整然とした文脈は出来かねますし、標準的な伴走のやり方の解説というよりも私の経験に基づく個人的な伴走のやり 方の解説となります事を御承知下さいますようお願いいたします。今回のレポートにまとめあげた内容を、さらに皆さんの意見を採り入れながらより簡潔に解りやすく読めるノウハウ本にまとめ上げていくのが 目標です。

個々の伴走ノウハウの解説部分では、細かい数字が並んだり同じような文章が続いたりと、かなり読みにくくなっていると思われますが最後ま でお付き合い下さいね(^^;)。

次章から伴走ノウハウを解説させて頂くわけですが、その前に下記の五項目について御了解して下さいますようお願いいたします。

1,伴走の細かい微妙な動きを文章で表現する事の難しさがあります。出来る限り理解しやすい表現を試みますが限界がある事を御承知下さい。

2,私が日頃伴走している視覚障害者ランナーは、どちらかというと競技志向でトレーニングを重ねている選手ですので、まだほんとに走 り始めの初心者レベルの方々に対する記述が少なめですし、適切に表現されていない可能性もあります、その点を御承知下さい。

3,伴走ノウハウの解説部分で特に断りがない場合は、私が視覚障害者ランナーの左側を伴走しています。

4,視覚障害者ランナーのクラス分けは3クラスあるわけですが、ここでは伴走者を必ず必要とするB1とB2クラスについて解説させて 頂きました。

5,個々の伴走ノウハウではB1とB2とでは伴走のやり方がまるで異なる内容もありますが、B1とB2共通の伴走のやり方もかなり多 い事は御存じの通りです。
迷ったのですが、読みやすくするために同じ文章である事を承知でB1とB2でそれぞれ完結する解説をしましたので、同じ文章も重複して書 く事にしました。
従いまして、だらだらと同じ文章が続くような印象を受けられると思いますが(^^;)、前のページに煩雑に戻って続きを読むのもやはり大変な事 ですので、その点の御理解をお願いいたします。特に坂道の解説部分では、かなり重複しているとの印象を持たれると思います。

 

 

第一章 伴走の世界にようこそ

伴走とは奥深く、限りなく広がった世界です

このレポートを読んで頂いている方の中で、興味はあるけれどもまだ伴走を実際にやった事はない、あるいは始めたばかりであまり細かいことま で気が回らないというレベルの方も多いかも知れませんね。そんな方々の為にこのレポートを通して、模擬的ではありますが、とある市民マラソン大会に視覚障害者ランナーと私とあなたの三人で一緒に走っ てみる事に致しましょう。

この模擬大会参加を通じて、伴走はいろいろなやり方があるんだなという事実を知って頂くと共に、より細かい伴走ノウハウの存在をも知ってい ただき、次には御自分で伴走をされる時に試してみてより良い伴走をする為の考察のきっかけになっていただければ素晴らしい事でもあります。

このレポートには、大会会場に到着してからの出会いから始まり、スタートからゴールまでの為すべき行為が時系列的に解説されていますので参 考になると思われる具体的な伴走ノウハウと、良き伴走アドバイスがたくさん含まれている事でしょう(^o^)。

 

伴走は、どうしても個性的なやり方が前面に出やすい性格を持っています。
何故かと申しますと、全ての市民ランナーがそれぞれに走る思いを胸に抱いて取り組んでいらっしゃるわけですからね。
従いまして、個々人それぞれに走るポリシーが存在する以上、伴走のやり方もそのポリシーに関わる思考の範囲で表現せざるを得ないという宿命 があります。
一般的には御自分の走るポリシーにかなう範囲で伴走ノウハウを構築し、結果としてそれが個性豊かな伴走を表出もさせ、個性あふれるユニーク な伴走形態をも生み出している事になるわけですね。

もちろん、私の伴走もその例外ではなく実に個性的な伴走をしているかも知れませんね(^^;)。
もちろん、それは悪い事でも何でもありませんが、伴走はともすると個性的なやり方が前面に出ざるを得ないという事を十分認識しなければなり ません。

しかしながら、どんなに個性的な伴走であっても基本的な共通ルールを踏まえて設定されるべきである事は申すまでもありません。
例えば、ハンバーグのお店やコンビニのお店で買い物をしてレジなどに並びますと、どの店員の方が接客しても一定レベルの対応をして頂ける事 を実感出来ますね。
伴走でも、このように一定レベルの共通ルールを設定しておけば、誰がどのような時に伴走しても一定レベル以上の伴走を受けられるというメリ ットがあります。
基本部分の伴走ルールを明確に設定しておけば、何時でも誰が伴走をしても同じレベルでのサポートが可能となりますので、初めてペアを組む場 合でも比較的安心できますね。

 

今は全国各地で、視覚障害者ランナーの為の練習会が開催されるようになりまして、一寸調べてみたなら、お住まいの近くにその様な練習会場が あるかもしれませんので調査してみて下さい。
例えば東京では、代々木公園での日曜日午前中の練習会に多くの視覚障害者ランナーとそれを支援する伴走者の方々が集まり毎週のように熱心に 練習を重ねています。

伴走する事に興味がありながら最後の一歩が踏み出せずにいらっしゃる方は、ぜひお近くの練習会に参加してみて下さい、スタートするには最適 な場所ですよ。
私も代々木公園の近くに会社があった関係で、代々木公園での練習会に参加させて頂きまして、そこで初めてロープを持っての伴走を体験しまし た。
かなり緊張した記憶がありますが、楽しかったですし驚きの連続でもありました。
そしてカルチャーショックも受けましたね(笑)。

もちろん、伴走ノウハウを更に深めたいとお考えの方にもお勧めです、練習後に伴走者同士でビールなどを飲みながら話をすれば、体験的な伴走 のやり方や失敗談などを聞けるかもしれません。

そして練習会などに長く参加していれば、特定の視覚障害者ランナーとペアを組んでのトレーニングを重ねるという形に発展する可能性も十分に あります。
特定の決まった視覚障害者ランナーと練習を重ねるほど安全に走れるようになりますし、きめの細かい伴走が出来るようになりますね。

長く伴走の経験を重ねて十分に伴走ノウハウを身につけて頂き、速く走るランナーでもゆっくりランナーでも自在に対応が出来るようになれば素 晴らしいですね。
伴走する事への自信がついて、伴走そのものを楽しめる余裕ができたなら、あなたは船のエンジンをかけて港を出港した船長です(笑)。
大海原へと船を進めて広い大平洋の中でお好きなように伴走を楽しんで下さい。

伴走の基本ルールはキッチリ押さえ、視覚障害者ランナーに安心して走って貰えるようになったなら、そこから先のオプション的な部分では個性 豊かな伴走をされる事は大いに歓迎されるべきものです。
私も港の外の大海原が無かったなら伴走はやっていなかったかも知れません(笑)。
それくらいに、伴走とは太平洋のように広大な世界の中で個性的な演出が可能であるが故に楽しい世界なんですよ(^o^)。
伴走をするに際して特別に制約されるような条件はないといってもよいでしょう。
強いて上げれば、身長差があまり大きすぎるとお互いのフォームに無理な力がかかるかもしれません。特にB1選手の伴走でロープを短くつなぐ 場合は多少制約条件にはなり得るかもしれません。
それと走るピッチ差が大きすぎると、これもB1選手の伴走でロープを短くつなぐ場合には、お互いにピッチを合わせるのに苦労する事になるか もしれません。

しかしこれらの制約も、その差がそれほど大きくなければお互いの気遣いや一緒に走り続けているうちに違和感なく順応出来るようにもなります。
このように絶対的制約というものは特にありません、乗り越えられるものばかりですので安心して下さい。
お互いに走ることが好きならば、それだけで文句なく合格です(^o^)。

そして“伴走のやり方”もそれほど高度なテクニックを必要とするものではありません、子供の頃にロープを使ったチンチン電車の運転手をやった 事があればOKです(笑)。

ごく常識的な範囲の走る知識があれば十分に対応可能です。
実際練習会などでも初参加のその日のすぐにロープを持ちながら講習がスタートするはずです。
ただ、皆さんの中にも、伴走は見た目にも実際にも簡単に出来ますので、短期間にハイレベルの伴走ノウハウが身につくのではないかと思われる 方がいらっしゃるかもしれません。
もしそうだとしたら、それは皮相的な見方というものですよ(^^;)。

伴走とは、それはそれは奥が深くて、仔細な対応をしようとすればする程に創意工夫の余地があり、工夫してみるとそれに続く新たな発見へと続 き、伴走をする時間が累増するのに比例して対応する伴走ノウハウは益々深まっていく事につながり、留まる事を知らない広大な世界なんです。行き止まりのない大洋のように大きく展開しているんですよ(^o^)。

 

視覚障害者ランナーをサポートする為の注意点

さて、ここから視覚障害者ランナーとの交流を初めて体験する方もいらっしゃるわけですが、マラソン大会に参加する前に大切な事を押さえてお かなければなりません。

電車の中とか公共の場所などで見られる光景でもありますが、障害者だと気づくと構えてしまう方も見受けられます。
そしてよりオーバーに対応してしまいがちですね。
日常生活空間で障害者と接する機会が少なくて慣れてない事がこのような現象を生み出してしまうのでしょうが、長く障害者と交流している方々 は当然の事ながら障害者といえども普通の人と何ら変わりがなく、ごく自然に接している事が多いわけですね。
日頃障害者と交流したり接する機会が多くなると、やがて自然に接する事が出来るようになるというわけです。

これから視覚障害者ランナーのサポートなどを始めてみようとお考えの方にとりましても同じようにごく普通に接して頂ければそれで十分なわけ ですが、伴走という事になりますと目が見えないという事情によりまして少しだけ注意して頂くべき接し方があります。
視覚障害者ランナーをサポートする場合の注意点をここで紹介してみたいと思います。
三項目あります(^o^)。

1,障害者の目となってサポートする
2,耳などからの情報収集を妨げないようにする
3,ウソを付かない(?)

それでは、それぞれの項目を解説させて頂きます。

 

  • 1,障害者の目となってサポートする

    私も含めて晴眼者の方々も、目が見えない状態を体験する為に、目にタオルなどを巻いて目隠しをし歩いてみたりしますが、その環境で1時間以 上もの長きにわたって体験をされた方は殆どいないのではないでしょうか。

    僅かな時間の体験では、目が見えないという事実に対する現象は把握できますが、視覚障害者はその永続して見えない環境の中でどのようにして 情報を得てそれに基づいて行動するかを把握する事はなかなか難しいものです。

    視覚障害者一人で行動する場合は、目の代わりの情報収集は杖であったり耳からの音であったり足の裏から伝わってくる感触などですね。
    それらの場所から伝わってくる情報を彼ら自身で分析して、判断し行動につなげるわけです。
    ですから、私達伴走者は当然の事ながら目の役割を本人に代わって引き受けるわけですが、その表現は、あくまで視覚障害者に解りやすいもので なくてはなりません。

    視覚障害者は、伴走者が横に並んでいる事によって自ら情報収集する割合を減らして伴走者から発信される情報に精神を集中するようになります。
    視覚障害者ランナーの目としての情報の伝達方法は、言葉による動作指示とロープによる動作指示の二つに大別されると思います。

    どちらがより確実に、或いは速やかに情報伝達出来るかは全てケースバイケースではありますが、どちらで伝えるかは視覚障害者ランナーにより 変わってきます。
    そして、どうしたら確実に視覚障害者ランナーに情報を伝達出来るかは伴走者である限り永続的に考え続ける命題であるとお考え下さい。

    非常に微妙な表現ではありますが言葉で表現すれば、
    “伴走は視覚障害者ランナーの「目の代りをする」のではなく「目になる」事が大切”という表現になります。

    言葉で右に曲がると言ったり、ロープをたぐり寄せて道路の変化に対応したりといった行為そのままが視覚障害者の側から見たら目の表現になっ ている事が大切というわけです。
    伴走者の“行為”が「伝える」ではなく「目そのものになっている」という表現でも同じ意味になると思いますね。
    ご理解頂けましたでしょうか(^^;)。
    伴走行為を言葉で表現する事の難しさを感じています(^^;)。
    読み進むうちに真意をご理解して頂けるはずです、ここはあまり気にしないで先にお進み下さい。

    非常に微妙な表現ですのでこの項目はあまり深く考えずにそのような考えもあるんだなといった程度に捉えておいて下されば十分です(^^;)。
    このレポートの最後でもう一度とりあげますので、その時は御理解して頂けると信じています。
    次に進みましょう(^^;)。

     

  • 2,耳などからの情報収集を妨げないようにする

    視覚障害者ランナーに次のような語りかけをしたらどのように反応するでしょうか?。

    「今からスタートしますが、私の声以外の一切の物音は聞こえないような環境で走りますからね」と告げたなら視覚障害者ランナーは走ることが不安になるのではないでしょうか?
    中には「そんな所では走ることは出来ない、止めた」と言う方が出てくるかも知れません。

    実際のマラソン大会ではそんな環境で走ることはあり得ませんが、視覚障害者ランナーは私達が想像する以上に耳からの音による情報収集をして いると言いたかったわけです。
    伴走者の声しか聞こえないとしたなら、視覚障害者ランナーにとりまして転倒の危険性は大きく増すと感ずる事でしょう、そんな状況ではとても マラソン大会を楽しむ気分にはなれないはずです。

    例えば殺到するランナーの雑多な足音でその混雑度を把握し、後ろから聞こえる足音でライバルの接近を知り、自分の足音の変化で路面状態の変 化をつかみ、応援の声が聞こえるからこそ最後の踏ん張りを頑張ろうとか、上げればきりがありませんが視覚障害者ランナーにとってはレース全 体での耳からの情報は膨大なものになります。

    そんな中、例えば伴走者が寒いからといってウィンドブレーカーを着て走った時に生地が硬いためガサガサと走る時に大きな音がして耳障りだっ たりしたなら、少なからず視覚障害者ランナーの情報収集を妨げる事になるかも知れません。

    走っているときに、風が強くて耳元でピューピュー音が鳴り響くといった走るのに条件の悪い日もありますが、そんな時に小さい声で「まもなく 右に曲がります」と言っても良く聞き取れなかったという事態になるケースも考えられます。
    このように耳元での風の音が強かったり、反対側の車線規制していない道路を車が走っている為に聞き取りにくいと思われるような時はいつもよ り大きめの声で情報を伝えなければなりません。

    晴眼者が思う以上に視覚障害者ランナーの聴力といいますか、音を聞き取る能力ははるかに優れており、相当の雑音の中から必要な音を拾い出し ていきますが、いずれにしましても視覚障害者ランナーは伴走者の指示と共に聞こえる音からも走る為の情報を収集していると心得て下さい。
    少なくとも自らの体から雑音を発することのないように、御自身の口も含めて(笑)。

     

  • 3,ウソを付かない(?)

    そんな事は当たり前と思うかもしれませんが、もう少し話を進めさせて下さい(^^;)。

    例えば、伴走者の私は朝起きたら体の調子が今イチだ「こんな気だるい体調だと伴走途中で自分が先に潰れて足を引っ張る事になるかもしれない な‥‥。だが10時からAさんの伴走が予定されている、どうしよう‥‥」といった冷や汗ものの体験は皆様も豊富にご経験だと思います。

    大会当日を体調万全で迎える事が出来なかった。膝に少し違和感がありスピードに乗った走りが出来るかどうか心配だ。或いは風邪がなかなか直 らず咳は出ないが熱があり体が怠いので全力で走れるかな?なんていう事は伴走を長くやっていますと幾度となく経験するものです。

    そんな体調不良による落ち込んだ気持ちで会場に到着して、視覚障害者ランナーと対面し今日の調子はどうですか?などと聞かれたくない質問を され、慌てて笑顔でバッチリですよなどと元気に答えたつもりでも、たいがい「あっ今日の調子は今イチなんだな」とバレている事でしょう(笑)。

    実際長く視覚障害者ランナーと付き合っていますが、いつもながらその物事に対する観察力といいますか洞察力にはいつも驚かされます。
    本当に驚くべきレベルです、その洞察力の素晴らしさに驚嘆して私は次のような一句を作りました。

    『晴眼者は、目が見えるが故に物を見ようとはしない、視覚障害者は目が見えないが故に真実を見ようとする』

    いかがでしょうか(^^;)、思い当たる人も多いのではないでしょうか。
    つまる所、いい加減なごまかしを視覚障害者ランナーの前で言ってもたいがいは見抜かれていますよと言いたかったわけです(笑)、気をつけま しょうね(^^;)。

     

    以上三項目ほど取り上げさせて頂きましたが、始める前からあまり深く考える必要はありませんよ(^^;)。
    伴走を始められれば直ぐに実際に体験出来るものばかりですし、ごく自然と対応出来るようになりますので安心して下さい。
    まずは第一歩を踏み出すことが大切ですからね。
    “誰でも最初は初心者だ” ですよ(^o^)。

     

視覚障害者ランナーHさんと私とあなたの三人で模擬大会参加 大会名は?

それでは長らくお待たせいたしました(^o^)。
いよいよ視覚障害者ランナーHさんと私とこのレポートを読んでいるあなたの三人で模擬大会に参加して一緒に併走して伴走のやり方などを模擬体 験してみましょう。

大会名は「国際盲人マラソン霞ヶ浦大会」、シーズンも最後に近い4月に行われる為に暑さ対策も必要だったりする大会です。

視覚障害者ランナーはHさんです!!
クラスはB2で、彼は微かながら道路上の白線なども認識出来るレベルです(夕方や夜間は無理ですが)、従って日頃の練習は明るい時を選んで一 人で走っています。
もちろん一人練習の道路は危険がいっぱいですので、ゆっくりめに走ります。
日頃の大会に向けてのメイントレーニングは通勤ランで15キロから30キロを走るとの事。自宅から勤め先まで意図的に回り道をしながら走行距 離をのばして走ります。
月間走行距離は、概ね400kmから600kmです。
スッすごい、負けそうです(^^;)。

この大会で使用するロープは50センチの長さになる輪になったロープを使用します。
(競技規則でも50センチまでの長さとなっていますからね)


※視覚障害者ランナーのクラス分けについて
視覚障害者ランナーのクラス分けを解説させて頂きますと、目の障害の程度によりまして三つのクラスに分かれています。

視覚障害の障害の重いクラスから、B1,B2,B3となります。
各クラス名に記載されているBは「ブラインド(盲目の)」の略です。

B1:視力がゼロから明暗弁(明るい場所か暗い場所かを認識出来るレベル)まで
“全盲”という表現を用いる場合もあります。

B2:視力が手動弁(視覚障害者の目の前で手を動かした場合にそれを映像として認識する事が可能なレベル)から視力0.03以下、又は 視野5度以内で良い方の目を基準とします。
“光覚手動”という表現を用いる場合もあります。

B3:視力が0.03以上0.1以下、又は視野20度以内で良い方の目を基準とします。
“弱視”という表現を用いる場合もあります。


このB3クラスの視覚障害者ランナーは一般ランナーと外見上は全く同じように見えますが、ストップォッチに表示される数字を読む事が出来ない 人も多いですし、視野が狭かったりすると意外と走りにくいようです。
野球の応援などで使用するメガホンを目に当てて見たなら、その走りにくさは理解して頂けると思います。


私は彼の伴走を数多くやっていますから、今度の大会でどのような走りをするのかは電話で確認するのみでOK。
2日前に電話にて会話しましたが、予想通り念願のサブスリーを目指すとの事です(^o^)。


※サブスリーランナーとは、
フルマラソンを3時間未満で走るランナーの一種の呼び方。
サブスリーランナーの割合はといえば、きちっとした統計は無いようですが全ての市民ランナーの一割程度と言われている。
サブスリーランナーになる事を目標として頑張っていらっしゃるランナーも多いですね。
私の身の回りにもたくさんいらっしゃいます。


Hさんは、この霞ヶ浦マラソン大会で初めてのサブスリーを達成する為に一生懸命走り込んできましたし、ここ二週間ほど軽い練習に留め調整を進 めて来ました。

自己ベストが3時間4分15秒なので、霞ヶ浦での暑さと風がどの程度のレベルになるかは判らないが決して不可能の目標タイムではない。しかし 3時間10分を切ってからの足踏みが続く。
サブスリーを目標にして3度失敗している、なかなかこの数分が克服できないでいる。
従って気を許すわけにはいかないが、本人もこの大会に向けて一生懸命走り込んできた、体調も悪くないとの事。余程のアクシデントがない限り実 現の可能性は高い。

伴走する私もHさんに出来る限り走る事のみに集中してもらい、そして転倒などのアクシデントが無いよう万全の態勢で伴走をしなければと大会当 日に向けて十分に練習を重ねて体調を整え調整して来た。
心を引き締め当日は完璧に仕事を果たしたいと思う。

 

スタート前にプログラムをしっかりチェック!

4月21日(日曜日)霞ヶ浦マラソン大会当日の朝を迎えました。
天気予報では曇りのち晴れの予報です。

実際、薄曇りの中青空が見えますから予報通りの天気で、日中は暑くなるかもしれません。
今の所風も弱いか無風状態だ、このまま穏やかでいることを願いたいですね。

スタートは10時です。今の時刻は8時20分過ぎ、待ち合わせは8時半ですのでもうすぐHさんも表れる事でしょうなんて考えているうちに、 そのHさんの声がしました。
いつものように奥さんと共に現れました。「お久しぶりです(^o^)」などとエールの交換をしてお互いの状況の確認をします。交わす言葉の中にも 元気な様子が伝わって来ればまずは安心ですね、互いに故障もなく無事に大会当日の朝を迎える事が出来ました。

伴走者の初仕事は、受付から受け取ったプログラムなどを見ながらコースの概要を説明することから始まります。
コースが全体としてどの様なコースなのか?

比較的市街地を走るのか、田園の中を走るのか、そして高低差などの情報は記載されていないかなどを出来るだけ分かりやすく視覚障害者ランナー に伝えなければなりません。

必要があれば視覚障害者ランナーの手のひらなどをなぞりながら説明し把握してもらう必要があります。
そして給水ポイントやキロ表示などは、どのようにな体制になっているかなど走る時に必要となる情報を伴走者自身で把握すると共に視覚障害者ランナーにも同時 に伝えるようにすると一石二鳥となりますね。
何度も参加している大会、このかすみがうらマラソンにも何度も参加していますが、そのような場合は変更された要件がないかを十分確認します。

例えば、霞ヶ浦マラソン大会でもスタート位置が変更になった年がありました。
当然途中のコースや給水ポイントも一部変わりましたが、このように何度も参加している大会であっても、いきなりコースとかスタート時間とか、 給水場所とかキロ表示などランナーにとって重要な要件が少しだけ変更になっている事がままありますので気をつけねばなりません。
毎年もらっているプログラムだから見なくても大丈夫と思わず、伴走者は必ず主要な要件には目を通す習慣をつけた方が安全ですね。
私も他の大会で、プログラムにコース変更がある旨書かれていたのにも関わらず、その注意を怠り視覚障害者ランナーに迷惑をかけてしまった事が あり、それ以降は気をつけるようにしています。

プログラムなどを見て変更になった要件があれば必ず変更内容を伝える事になりますが、何も変更されていない旨伝えるのも親切かも知れません ね。

それらの確認が済んだら今日のレースペースの設定とかライバルの把握などの作戦会議的な事柄をこの時に済ましておきます。

そして着替えをしたりゼッケンを着けたりしていますと時間も経過していき、体操とジョグを開始しなければならない時間となりますので、雑談を しながらも互いに体操をしたりストレッチなどをやりながら徐々に体を動かしていきます。

時間の経過といえば、スタートまでの残り時間というのは誰でも気になるもの、私自身も大会に参加すればかなりの頻度で時計を見ますが、自分の 時計を見たついでに視覚障害者ランナーにも聞こえるように現在時刻を伝えるのも良いですね。
視覚障害者ランナーも自分の時計はあるでしょうが、伴走者が現在時刻を表明すればそれだけ楽ですからね。

あっそれから、お節介ですがトイレもタイミングをみて行っておいて下さいね(^^;)。
大会によっては参加者の割にはトイレが少なく焦ってしまうことが多々ありますので、大会会場に到着したなら伴走者はトイレの場所やトイレの総 数が多いか少ないか、つまりピーク時かなり混み合う可能性があるかないかを早めに把握しておく事をお勧めします。
これは大事ですよ、スッキリした気分でスタートしたいでしょ(^o^)。

 

大切な “スタートとゴールの練習”

さていよいよロープをつないでのジョグによるウォーミングアップの開始です。
当然の事ながらこのウォーミングアップで、体を暖め各部の動きを良くしていくわけですが、グランドなどでしばらくジョグをした後、ここからが 重要ですよ!!

例えば、一般的なマラソン大会でのスタート・ゴール地点というのは、大概が小中学校のグランドであったり、市役所や○○センターの広場であったり、そして立派な陸上競技場であったりするわけですね。
そしてそのスタート地点から県道や国道などの一般道路に出るのには、ちょっとしたスロープがあったり坂道があったり、或いはカーブが何度かあ ったりするわけです。
そうした視覚障害者ランナーにとっては、転倒リスクの高いそれらの走路部分を無事に通過する為に “スタートとゴールの練習” をすることを推奨したいと思います。

ここ霞ヶ浦マラソン大会コースも、スタート地点は道幅も比較的広くて直線道路上ですので一度走って雰囲気を掴んで頂ければそれで良いのですが、 ゴールは御存じのように250メートル手前の一般道路から競技場に至る最初のカーブが4時方向ぐらいの、つまり直角よりも鋭角になっています し当然段差もあります、そしてもう少し進んで競技場に入る部分でも段差が何カ所かありますし最後のカーブがあります、舗装路面の状況も良くな いし400メートルトラックに入るまでの路面も良くありません。
このゴール前250メートルの区間は何度か走ってその曲がりの感覚や路面状態をしっかりと頭に入れる必要があります。

飛行機だって離陸の時と着陸の時に事故が発生する確率が高いというではないですか(笑)。

私達のレースでも、スタートの時は視覚障害者ランナーも伴走ランナーも少なからず慌てます、大会参加経験が少なかったり伴走の初心者ならなお さらでしょう。
そしてゴールだって、視覚障害者ランナーはボロボロ、伴走ランナーもアップアップで頭の中はボーとして判断力が落ちているなんて事は良くある 話です。
そんな中で転倒事故が発生しないとも限りませんね。

同コースを走った経験回数に応じて1回から3回程度は走ってみて下さい。
スタート地点から一般道路に出るまでと、帰りはそれと逆に一般道路から外れてゴールに至るコースを走ってみる必要があります。

ゆっくりとジョグで試走する流れの中で、出来れば一度か二度はレースペースでその曲がり具合やスロープの勾配などを体感して体で覚え込む必要 があります。

御存知のようにおなじスロープや曲がりでもスピードが早いか遅いかによって随分と違った体感になります、走るスピードが速くなればなるほど急勾配の登り・下り坂への警戒が必要です。 特にスロープなどのように急に坂の勾配が始まる場合は、格段に転倒リスクが高まりますから注意を要します。

又レースペースでの走りによるポイントからポイントまでの距離感をつかんでおく事も必要です、ボロボロになって帰ってきた時に有り難く感ずる はずですね(^^;)。

重ねて申しますがこれらは予想されるレースペースでの試走が最も重要です。

何度も参加している大会であるならば、試走の必要性はない場合があるかもしれませんが、それでも前回走ったのは一年前ですからね、やってみる 価値は十分にありますね。
体操からジョグへのウォーミングアップの流れの中でその試走をすれば負担はほとんどありませんので、“スタートとゴールの練習”はぜひ取り入 れて頂きたいポイントですね。
もちろん初めて参加するマラソン大会ならこの“スタートとゴールの練習”は必須ですよ。

走ってみて、思いもよらない場所にちょっとした段差や路面のくぼみを発見したり、「意外にスロープが急だったね」などと感じたりで、視覚障害 者ランナーにとっては「ボロボロになって帰ってきてもこれで安心」と思えるでしょうし、伴走ランナーにとっては「これでロープさえ離さなけれ ば転倒はあり得ず」と思えて今日の伴走に対する自信が沸いてくるかも知れません、こないかな(^^;)。

“スタートとゴールの練習”、これを必ず行うことにより、レース中の転倒事故の確率が大幅に減ると確信しています。

 

スタート地点へ移動する前に装備点検を忘れずに!

さあウォーミングアップも順調に進み、体から汗がにじむほどにまでなってきました。
時刻も9時40分過ぎとなりましたので服装をレース用のランニングに着替えジョグをしながらスタート地点に向かう事にしました。

ストップ!! ちょっと待って下さい(^^;)。
スタート地点に向かう前に伴走者としてやるべき事が一つありますよ。
靴ヒモはしっかりと結ばれているか、チップがきちんと靴に装着されているか、ゼッケンはしっかり留められているか、ロープは持ったか、帽子と か手袋は装着したか、ストップウォッチは腕に装着されているか、擦れやマメの発生予防の処置はしたか、余計な物を身につけていないか等々をしっ かりチェックして下さいね。

伴走者自身の点検も含めて、この最終チェックを視覚障害者ランナーに対して行う事は伴走者の仕事ですよ!スタート地点で装備不足に気づいて、慌てて着替えの場所へ戻って取ってくるのは大変な事ですからね(^^;)。

 

スタートポジションのとり方

さあ、それら装備をチェックしてOKなのでスタート地点へとジョグで向かいましょう。

霞ヶ浦マラソンではフルマラソンを走る選手は七千人余りにも及び大変な混雑となりますが、嬉しい事に視覚障害者ランナーのレーンともいうべ きスペースがスタートラインからずっと確保されていますので、遅刻して5分前にスタート地点に行っても大体先頭付近にポジションを取る事が 出来ますね(^o^)。
私達は9時50分に10マイルの選手がスタートする前からスタートライン付近でストレッチなどを各自行いながら待機して10マイル選手が走 り去った後速やかにスタートライン最前列に陣取りました。

この大会でHさんは最前列のポジションに立ちましたが、スタートラインを基準としてどれくらい後退してポジションを取るかというのはなかな か難しい問題です。
ある意味では、この霞ヶ浦マラソン大会は視覚障害者ランナーにとりまして非常に恵まれたスタートが可能です。このような恵まれたスタートが 出来るのはごく少数の大会に過ぎません。

一般論としては、一般の選手であっても視覚障害者ランナーであっても、出来るだけ前からスタートすればそれだけロスタイムも少ないし走りやす いと思われるし、疲労も少なく済みそうな印象がありますね。
視覚障害者ランナーが大会に参加して、何千人ものランナーの中で後ろの方にポジションを取りスタートした場合に、何時までも何処までも連綿と 続く集団、そしてその集団をかき分けるように右に左に追い抜いていく苦労は一度体験すれば懲り懲りですよね。

このように後ろからスタートした場合は、当然の事ながら視覚障害者ランナーは右に左にクネクネと走らざるを得なかったり、スピードを上げたり 緩めたりでエネルギーを余分に消耗してしまいますね。
又、伴走者といえば右に左に曲がって下さいと連呼したり前後のランナーの密集度に応じてスピードに緩急をつけざるを得ず、混雑していると転倒 の危険性も増すので、断続的に強い緊張感を強いられます。
二人が並んで走るスペースを確保しながら前後にたくさんのランナーが走っている中で瞬時の決断も幾度となくせねばならず、片時も油断出来ない 中で走りを進めるのは伴走者にとっても本当にしんどいです。

私も伴走で大会に参加して、仮に走路の前後10メートルの間に他の選手が誰も走っていなければ絶対に視覚障害者ランナーを転倒させないという 自信がありますが、スタート直後に見られるような選手が密集して走る場面では、伴走を何年やっていても転倒させてしまうのではないかという不 安は尽きませんね(^^;)。

このような無駄なエネルギーを消耗しない為にも出来れば前からスタートする事をお勧めしたいわけですが、御自分の走力を大幅に超えた場所から スタートすると、今度は後ろから押されて、これまた大変に危険な状態に陥りますし、他のランナーに迷惑をかけてしまう事態になってしまいます、 何しろ私達は二人分の場所を占有しながら走りを進めるわけですからね(^^;)。

一般のランナーでも一部の選手は、本来後ろからスタートすべき選手であると思われるのにスタートライン付近からスタートして随分と周りのラン ナーに追突されそうになり互いに困惑している様子を見かけたりしますが、視覚障害者ランナーもより安全なスタートを重視するならば本来の走力 に見合ったポジションからスタートするようにした方がより安全にスタートが出来るという点は間違いのないところです。

Hさんが大会に参加する場合のポジション取りはいつも決まっていて、基本的には自分の走力レベルのポジションと思われる場所よりも一段階ほど 前に陣取ります。
極端に前に並ぶ事は避けていますので、ほとんど危険な思いをしたという事はありません。

一段階前からスタートするとどのような状況になるかと申しますと、スタートしてからはほとんどが少しずつ抜かれていくという感じで、逆の抜く 動作はあまり必要としません(^o^)。
二三キロ先に行きますとその抜かれっぱなしという状態から変化が表れてきまして、走力的な均衡がとれてきますので視覚障害者ランナーの持つ本 来の走力のポジションに入って来ます。結果として抜きつ抜かれつがほとんど無くなり、前後のランナーの移動も無くて相対的に流れが安定し安全 な状態の中で走りを進めていく事が出来ます。

スタートラインから走り始めて数キロ先までの段階では、このような流れで走るのが視覚障害者ランナーにとっては無駄なエネルギーも使わないし、 相対的に安全に走ることが出来るという点で理想的ではないでしょうか。
そして視覚障害者ランナーの本来持っている走力を正確に反映出来る走り方でもあります。
視覚障害者ランナーにとって良い走りが出来るという事は、伴走ランナーにとっても負担の少ない伴走が出来るはずですね(^o^)。

繰り返しますが、霞ヶ浦マラソン大会でのスタートは、視覚障害者ランナーにとっては数少ない恵まれたスタートが可能です。
他の一般大会では全てケースバイケースですので事前にしっかりと情報を収集してどこにスタートポジションを置くか、或いは何処からのスタート しか出来ないのか、その辺を十分にチェックし打ち合わせを行いスタートでつまずかないようにしたいものですね。

もちろん、例えば青梅マラソン大会のようにゼッケン順に並ばなければならない大会もありますが、そのような時は早々と諦めるのが一番ですね(^^;)。 (青梅マラソン大会も陸連登録で申し込めばスタートライン付近に立つことが出来ます)

又、ゴールタイムがプラカードに掲示されていて、各ランナーは自分の判断で予想されるゴールタイムが掲示されているエリア内に入る場合は、あ まり自分の記録に正直になるのは問題かもしれませんね(^^;)
たいがいの選手が自分の予想記録よりも前に陣取るのではないでしょうか、かく言う私もその一人ですが(^^;)。
そのような時に、どの場所が適正かの判断は難しいですが、一つのヒントとしてその枠内に居並ぶ選手の体つきを見ます(^^;)、ちょっとお太り気 味の選手が多かったりお腹が出っ張り気味でエリアに掲示されている範囲のゴールタイムで走れるわけがないと思える人が多かったならもう少し前 の枠に入った方が苦労は少ないかも知れません(笑)。
半分冗談ですが。

もう一つの例として、一定レベル以上の走力を持っていると自信のある視覚障害者ランナーの場合は、例えば荒川市民マラソン大会や前に出ました 青梅マラソン大会のように陸連登録をしている選手は一番前のスタートラインからスタート出来ますので視覚障害者ランナーであっても陸連登録を 済ませておいて、そこからスタートするという方法もあります。

但し、この方法もたった一つだけ注意を要します。
それは、前に行けばいくほど、スタートラインに近ければ近いほどトップアスリートと呼ばれる速く走る選手がたくさん陣取っているわけです。
そ んな走る自信と意欲に溢れる選手と共にスタートしてしまうと、どうしても周りの速い選手の雰囲気に呑まれてしまい、スタート後ついついオーバ ーペースで走り始めてしまいます。
すぐに気付いてペースダウンすれば後半の走りに大きな影響は及ぼしませんが、1キロとか2キロ以上走って一定のペースを作ってしまうとなかな か落とせるものではありません。
その意味におきまして、この霞ヶ浦マラソン大会では1キロごとの距離表示がありますので、まずは1キロ地点での走行タイムを確認してペースを 落とすなりの修正を行わなければなりません。
理想は1キロなんて先に進んでからではなく五百メートルも行かないうちにペースの修正をお互いに声を交わしながら始めるのが理想ですね。

ここ霞ヶ浦マラソン大会では1キロごとの距離表示がありますが、大会によっては5キロごとの距離表示しか為されていない大会も多いですね。
5キロ毎でのペースの修正というのはちょっとロスが大きくなってしまう可能性があります。
5キロほどもオーバーペースで走ったら一般ランナーでも視覚障害者ランナーでも後半の落ち込みを覚悟しなければならないかもしれません。

その意味ではマラソン大会主催者に要望したいのですが、全体としては5キロ毎のキロ表示でも構いませんが、出来れば最初の5キロまでだけは1 キロ毎の表示をして頂けると嬉しいですね。
そうなれば、少なくとも1キロ単位で微調整しながら5キロ地点に達する前に、すでに予定していたレースペースに持ち込めるようになるランナー も多くなると思いますし、無駄なエネルギーを浪費しないで走る事が出来ると思いますね。

このオーバーペースになる事は絶対に注意しなければなりません、今までせっかく練習を積み重ね体調を整え今日の自己記録更新に向けて万全の態 勢で臨んだのに、このスタート直後のオーバーペースで全てが台無しになってしまう恐れがあります。
私は大丈夫、何度かその愚かな行為は経験しているから(^^;)とおっしゃるなら心配はしませんが、前の方からスタートすればするほどそう言いなが らも実は雰囲気に呑まれてオーバーペースだったというのが意外と多いんですよ(笑)。

 

打ち合わせ漏れはありませんか?もう一度チェック

さあスタートポジションも確定しました。
あと数分の内にスタートする訳ですが、伴走者である私は、ある大切な事柄を打ち合わせていない事に気付きまして、スタートライン上で慌てて Hさんと打ち合わせを始めました(^^;)。

今日のレースも後半かなり暑くなりそうなので給水についてどのように対応したらよいかを話し合っておこうと思ってはいましたがうっかり忘れて いました。

打ち合わせの結果は、
Hさんの希望では、原則として水を取る。そして体調に応じてスポーツドリンクがほしくなった場合にHさん側からスポーツドリンクがほしいと宣 言するという形で走りを進める事になりました。
(限られたタイミングで両方を取り続ける訳にはいきませんからね)
そしてバナナやチョコなどの給食があったら食べるかどうかの問い合わせをする。複数の食品があった場合は、その中からHさんが希望する食品を 指定してもらう、それを私が取る。
というように給水・給食について打ち合わせをしました。

スタート間際になってこのような、レース中の行動について打ち合わせをするのは決して褒められた話ではありません(^^;)。
同じ組み合わせで何度も大会に参加しているなら、このような給水・給食などの事については「いつもの通りでやりましょう」でOKでしょうが、 コンビを組んでから一緒に走った経験が少なければ、走行中に必要になる給水・給食などの重要な要件は大会前やスタート前に“何を取るか、どの ように渡すか”などについて、十分打ち合わせを行っておく必要がありますね。

給水・給食の打ち合わせの話が出ましたので、ここで伴走のやり方などを事前に打ち合わせを行って互いの対応を取り決めておけば安心と思われる 項目を、基本的な原則項目から重箱の隅をつつくような細かい約束事も含めて取り上げてみたいと思います、ちょっと長くなりますが我慢して読ん で下さいね(^^;)。
四項目あります!!

1,視覚障害者ランナーの右側で走るか、左側で走るか
2,視覚障害者ランナーが「はい」と返事をするか、しないか
3,ライバルの位置関係を積極的に伝えるようにする
4,初顔合わせの場合は、大会前に一度会って練習をする

それでは、個別に解説をしていきたいと思います。

 

  • 1,視覚障害者ランナーの右側で走るか、左側で走るか

    どちら側で走るかという課題に対し、結論は速やかに出るのではないでしょうか。

    本当にゆっくりのんびり走る人を除いて、給水・給食を取るレース(一般的には10キロを超えるレース、もしくは夏場のレースだと思います)は、 当然の事ながら給水側を伴走者が走る事になるでしょう。
    つまりたいがいの長距離レースでは、伴走者は左側という事になります。
    一方給水のないレース或いは給水を取らずに最後まで走りきるレースならどちら側でも希望するように対応して良いのではないでしょうか。
    非常に簡潔ですが、これが結論ではないでしょうかね(^o^)。

    話が少し逸れてしまいますが、この件に関しては視覚障害者ランナーも伴走者も左右どちら側でも走れるようにしておく事をここで提案したいと思 います。
    そのメリットは、ランニングフォームの左右のバランスを保持する為と、結果として故障を防ぐ可能性が高いという事ですね。
    特に視覚障害者ランナーは、例えば伴走者を左側において走ってばかりいると、知らず知らずのうちに左右偏った筋肉が付いてしまいますし、左右 偏ったフォームになっている可能性が高いですね。それらが故障に発展しなければ良いのですが、長年同じような偏った負荷をかけ続けていますと、 体は正直ですから思いがけないところで体のトラブルが発生してしまう事もありますし、故障に至らないまでも左右の筋肉がアンバランスだったら せっかく持っている潜在的な走力を結果として弱めている可能性も有りますね。

    伴走者にとりましても常に同じ側で伴走をやり続けていますと、長年続けている中できっと左右の筋肉のアンバランスやフォームのアンバランスに より座骨神経痛になったりフォームが左側に向いたようなアンバランスにフォームになってしまう恐れがありますので注意を要します。これは視覚 障害者ランナーがゆっくり走るランナーだから心配しなくても良いという問題ではありません。

    私の経験でも、ゆっくりランナーを伴走する場合でも長時間走る場合は相応のアンバランスが生じていると見るべきで、伴走での月間走行距離が長 いランナーほど要注意である事は言を待ちません。

    特に400メートルトラックなどでスピードトレーニングをされている視覚障害者ランナーや伴走者については、コーナー部分で右側の筋肉に比べ て左側の筋肉に相当に過大な負荷がかかっていることは間違いのないところです。
    フォームも相当左側に傾けないと遠心力で外側にはじき出されてしまいますよね。これはスピードが速くなればなるほど左側に重心が移動しなけれ ばならない事を意味しています。

    視覚障害者ランナーの方も生涯にわたって走り続けたい、伴走者も走れるうちはずっと伴走をやりたいとお考えなら、本練習の時や大会参加の場合 は決まった側で走らなければならないかも知れませんが、ウォーミングアップやクールダウンの時などには積極的にそれらとは逆の側で走るべきと 考えます。

    400メートルトラックなどで練習されている方は、本練習は反時計方向しか走れませんが、ウォーミングアップ・クールダウンの時に時計方向に 走っても良いとする競技場であるならばその方向でジョグするのも良いかも知れませんね。(もちろん二人並んで走るわけですので逆走は他のラン ナーの迷惑にならないよう十分に注意を要しますし、無理は禁物ですね)

     

  • 2,伴走者の指示に対し「はい」と返事をするかしないか

    伴走者の指示の語りかけに対し、視覚障害者ランナーの中でも返事をする人としない人がいらっしゃいますね。
    私個人としては、選手である視覚障害者ランナーが一々返事をすればそれだけエネルギーの消耗を増すだけですので、出来れば返事はなしでお願い したいところですが、性格や心配りで返事をするという視覚障害者ランナーもいらっしゃいますので、返事をしないで下さいとも言えません(^^;)。
    結論としては視覚障害者ランナーの判断に任せています。

    返事をしてもらうメリットは、伴走者にとって指示が確実に視覚障害者ランナーに伝わったなと実感できる事にあります、確かにこのメリットは大 きいですね。
    このメリットの為だけを考えても返事をする価値は十分にありますし、二人の共同作業で走っているんだなという連帯感も強く感じる事が出来ますね。
    ただいつも返事をする場合は、突然返事をしなかったりしたら、「アレッ指示が伝わらなかったかな」なんていらぬ心配をしてしまいますので、ゴ ールするまで確実に返事を続けて下さいね(笑)。
    返事をする事のデメリットは、ただ一つ視覚障害者ランナーのエネルギーを消耗させてしまうという事ですね。

    意外に思うかも知れませんが、この声を出すという作業は思いのほかエネルギーを消耗してしまうと考えられます。
    フルマラソンを走る中で合計100回の返事をしたなら、トータルでは10秒ぐらいのエネルギーをロスしているかも知れません(^^;)。
    これは少しオーバーかも知れませんが、声を出すという事は少なからずエネルギーを消耗するとお考えて下さい。
    伴走者にとりましてはその辺の感覚はご理解頂けると思います。

    特に私などは、走力がそれほどないにも拘わらず比較的トップレベルの視覚障害者ランナーの伴走をする機会が多い為、走力差が本当に少ないん です(^^;)。
    ですから、いつもアップアップの中での発声に苦しんでいます、私の方が先に潰れてしまうのではないかと思える状況の中で走りを進めている事 も多いんですよ(^^;)。

    本当に呼吸が苦しいものだから、必要に迫られていかに言葉を短くするか、いかに発する回数を減らすかに神経を注いでまいりました。
    怪我の功名というやつですね(^o^)。
    ですから、走力差が大きければこれほど発声による疲労度などについて神経質になる必要はありません。

    後で述べますが、私も伴走者ですから声を煩雑に発しますが、空気をあまり吐かずに声を出す方法を発見しました(笑)。
    これは声というよりも音と表現したほうが正確かも知れませんが、この場合だとあまりエネルギーを消耗しないと考えられますのでお勧めの方法 です。
    この秘技については、後ほど書かせて頂きます(笑)。

     

  • 3,ライバルの位置関係を積極的に伝えるようにする

    Hさんにもライバルがたくさんいます、これは決して悪いことではありません(^^;)。
    強くなる為には強力なライバルの存在は欠かせません、それは一般ランナーでも視覚障害者ランナーでも同じでしょう。
    Hさんも、常に前を走り続ける強力なライバルがいたからこそ、何時の日かきっと抜いてやるとの思いで練習を重ねてまいりました。
    その結果、短い間にサブスリーを狙うところまで競技レベルを上げてきました。

    これからも変わることのないライバルとの戦い、そして若い選手の台頭、そして今はサブスリー達成を目指しての記録への挑戦。
    負けず嫌いのHさんにとりまして、益々闘争心をかき立てるものばかりです、これらは今後も変わることなくHさんに強く走る動機付けを与えてく れる事でしょう。

    こんどの大会でも入賞を果たす為に同じクラスのランナーは全てマークします、負けるわけにはいきません。
    そして、クラスは違っても日本人選手の三人をライバルとして常にマークし位置関係を把握していくことになりました。
    視覚障害者ランナーは目が見えないが故に、どちらかといいますと自分自身との戦いの思いが強いのではないかと認識されがちですがそんな事はあ りません(笑)。
    視覚障害者ランナーだってライバルに負ければガックリと落ち込みますし、勝てばビールがいつもの倍は美味しく飲めるというものです(笑)。

    私達伴走者は、その事を十分に重要視してライバルとしてマークする事になったランナーの走りを出来る限り戦略的に、そして詳細に伝える必要が あります。
    ライバルの動向に関する伝達事項は、競技レベルが高くなるほど重要度を増してきます。
    Hさんも、この霞ヶ浦マラソン大会に於ける入賞着順 とゴールタイムには相当の思い入れがあるようで、そんな雰囲気を敏感に感じ取りまして伴走者である私も自分のレースのような気持ちでライバル と戦っています(^o^)。

    そんなわけでライバルとの位置関係をどの様にHさんに伝えていくかという二人だけの秘密の取り決めをしました。
    なにやら怪しくなってきましたが、だってそうでしょ!ライバルが近くを走っていたなら大きな声でその人の名前を語るわけにはいかないでしょ(^^;)。
    というわけで、誰をマークするか、ライバルとの戦況をどのように語るかなどを十分に事前に打ち合わせをしておきます。
    もちろん大会前などの、事前の情報収集も怠りなくですね。

     

  • 4,初顔合わせの場合は、大会前に一度会って練習をする

    今まで書いてきた事からもお分かりのように、伴走はそんなに難しい技術やノウハウを必要としませんが、より精緻な伴走をやろうと考えたり、視 覚障害者ランナーに全力を出し切れるような走りをしてもらおうと思えば、スタート前にお互いに十分話し合い取り決めておかなければならない一 定の約束事は本当にたくさんあるという事に気付かれる事でしょう。
    とても大会当日の朝のスタート2時間前に初めてお会いして「初めまして、よろしくお願いします」などと会話を交わしながら、着替えをしなけれ ばならないトイレにも行かなければならない、ウォーミングアップもしなければならないなど、それらへの対応の中で伴走のルールや約束事などを 互いに確かめ合い取り決めていく事などは、とうてい出来ないという事はご理解頂けると思います。

    というわけでお勧めしたい方法が、初めてペアを組む場合が霞ヶ浦マラソン大会などの大会参加である場合は、出来れば大会当日までに一度お会い して、視覚障害者ランナーの走る事への思い入れや、どのような伴走をしてもらいたいとか、特殊な事情によりこのような時はこのように対応して もらいたいとかの要望を語ったり、反対に伴走者は「いつもこのように伴走をやっているが差し支えはないですか」などと語って伴走のやり方など をテストしたり、身長差がある場合はロープを持つ高さをチェックしたり、お互いの走るピッチを確認をしたり、視覚障害者ランナーの走力を自分 の目や耳でしっかりと把握するなど、大会前に一度会って状況を把握する為に一緒に走ってみるメリットは計り知れません。
    速いランナー遅いランナーに関係なく会ってみる事に十分な価値はありますね。

    私の経験でも、大会当日はすでに走る事への緊張感が互いに高まっており、穏やかに会話をする事もままなりません。
    大会前にお会いしてジョグをしながら話をする場合は、じつに穏やかに会話をする事が可能です。必ずや「事前に会っておいて本当に良かったな」 と思えるはずですので、ぜひお勧めです。
    大会当日へのプレッシャーも少しだけ減ります(^^;)。

    ただ、お互いの住まいが遠く離れていたりすると事前に一度お会いするという事はちょっと難しいかも知れませんね。
    時間とコストの兼ね合いもありますので出来る範囲でお勧めする要件ではありますね。

 

 

第二章 伴走の実際

いよいよ霞ヶ浦マラソン大会のスタートです!!

行きつ戻りつ、なかなかスタートできませんが……………(^^;)、
皆さんあまりにもスタートが遅いので待ちくたびれてますね~~~。ご免なさ~い。
今度こそ、いよいよスタートしますよ~(^^;)。

 

スタートライン付近は一般選手でもしっかりと走り込んで体を絞り、いかにもアスリートと呼びたい素晴らしい体のラインをした選手がたく さん待機しています。
そんなハイレベルな雰囲気の中でスタートを待っているといやが上にも緊張感は高まってきますね。
Hさんは笑顔の中にも「よーし、目一杯走ってやるぞ」とテンションは上がってきて来ていることでしょう。

Hさんがライバルとしてマークする日本の視覚障害者ランナーに話しかけています。
私はその間にライバルの顔とゼッケンとウエアを一致させ、頭にインプットしました。

そして霞ヶ浦ではほとんど毎回顔を合わせる外国人選手ともHさんは笑顔で親しく握手を交わしています、外国人選手もHさんの事はちゃんと知っ ていて前夜祭でも随分と親しく身振り手振りや片言の外国語で会話を楽しんでいたという事でした。
そして互いに堂々と戦いましょうと言う強い意志が私にもビンビン伝わってきます。

空は時々晴れ間ものぞき、風も無風状態で絶好のコンディションです。
カウントダウンがすでに始まっています、スタートライン上の各選手も緊張感の中、目を前方に据えてスタートの合図を待っています。

10秒前‥‥‥‥「ドーン」
一斉に選手がスタートしました。
私達も時計のスタートボタンを押すと同時に、ロープをたぐり寄せた状態で走り始めました。

B2であるHさんとは通常ロープを伸ばした状態で走りますので、スタート時に足並みを揃える必要はありません、足についてはバラバラに走り 始めます。
(B2クラスの場合でも、もちろん揃えて二人三脚の形で走り始めてもいっこうに差し支えありません、余裕がありましたらそのようにやってみ て下さい)

スタート後しばらくは安全確保のためたぐり寄せたロープをその状態で腰の斜め前あたりに保持し、腕振りは行いません。前を走る選手の動向を 見ながら安全な場所を求めて走りを進めていきます。

B1選手の場合で、常にロープを短く持って走る場合は、スタート直後から二人三脚のように足を合わせる必要がありますね。
二人三脚の形になるように視覚障害者ランナーが左足を前に置いたなら、伴走者は右足を前に置いてスタートラインに立ち、スタート第一歩から 足を合わせるようにします。
こちらもスタート後しばらくは安全確保のために、ロープを持つ腕は振らずに腰の斜め前あたりに保持して走ります。
前を走る選手の動向を見ながら安全な場所を求めて走りを進めていきます。

このスタート直後の走りは視覚障害者ランナーにとりましては本当に要注意です。

スタートライン上の最前列からスタートする場合は前の選手の踵などとの接触を心配する必要はありませんが、スタートラインから後方にいけば いくほどスタート合図と共に走り始めるわけではありませんね。
ゆるりと走り始めるわけですが、視覚障害者ランナーはその辺の流れを全く把握出来ないわけですのでスタートの合図と共に勢いよく飛び出して しまうかもしれません。
いきなり飛び出してしまうと前を走る選手に接触して足が絡んでしまう事にもなりかねませんので、伴走者は、腰の斜め前あたりに保持したロー プを持つ握り拳で、視覚障害者ランナーが先走りしそうだったら抑制しなければなりません。

このように、スタートからしばらくの間の選手がばらけるまでは、視覚障害者ランナーの前に行こうとする勢いを抑制する形で走りを進める状況 も珍しくありませんね。
そして常に前を走る選手との距離を安全が確保出来るほどに空けて走りを進める事になります。

スタート直後で一番多いアクシデントが前を走る選手の足のかかと付近と視覚障害者ランナーの前に出した足と接触してしまう事態ですから、前 の選手と一定の間隔を空けるように心がければ防げる可能性は高いです。

霞ヶ浦マラソンではスタート直後は比較的道幅も広く直線道路ですので比較的安心してスタート出来ますね。

例えば、非常に希なケースではありますが、小田原盲人マラソン大会では種目によっては400メートルトラックの第一コーナーからスタートし ます。
このようにスタート直後がカーブで始まり、カーブが連続しているような場合は非常に危険ですのでコース取りには慎重な対応をしないと他のラ ンナーと足が絡み視覚障害者ランナーを転倒させてしまう事につながってしまいます。伴走者はしっかりとロープを短く持って誘導しなければな りません。

小田原大会では、400メートルトラックで走ったことがないような初心者的な視覚障害者ランナーも多数参加しますので、伴走をされる方は4 00メートルトラックでの走りの経験度合いを必ず聞いて、必要に応じて、スタートの練習を何度かやってみてカーブの曲がり具合を理解しても らうように努めた方が安全です。
スピードが遅いから大丈夫という事ではなく、曲がる円弧の感覚を理解してもらわなければならないからです。

どの大会でもスタート直後は、前にも書きましたが速い選手の中に遅い選手が混ざっているのが一般的です。
速い選手が遅い選手を抜いていくときに、いきなり右から左から視覚障害者ランナーの前を斜走ともいうべき走りで割り込んできますので、足と 足が接触する可能性が高まります。スタート後しばらくの間は前だけ見るのではなく横にも目配せをして他のランナーの動きを警戒しなければな りませんね。
警戒を必要と感じている間は、ロープはたぐり寄せたまま走り続けます。

そうして前や横を注意深く見ながら、選手がばらけるまでは警戒して進みます。
Hさんの場合は、スタート直後はロープを短く持って走り続けますが、他の選手がばらけてくるのに比例して少しずつ短く持ったロープを伸ばし ていきます。
そしてロープを最大に伸ばしたなら、リズムに合わせて腕を振るようにし向けます。

霞か浦マラソン大会のスタート後のコースは緩やかにカーブしています。このように非常に緩やかなカーブを視覚障害者ランナーに伝えるか伝え ないかは伴走者の考え方によりますが、私達は何度も走っているコースでもあるのでこの程度の緩やかな曲がりは曲がりであると表現しません。
私は初めて走るコースでもこのくらいの非常に緩やかなカーブは直線であると視覚障害者ランナーに認識してもらうようにロープさばきをしなが ら走りを進めます。

200メートルほど進んだところで、一般ランナーのトップが20メートル程前を走っています。
これは明らかに私達のスピードは速すぎますので、私はHさんに「少し飛ばしすぎですね、少し落としましょう」と声を掛けました。
実は200メートルほど進んだところで私がペースダウンの必要性を語るのは、毎度の恒例となっています(^^;)。
どうしてもHさんは、走力がありますので速く入ってしまいがちですね、明らかなオーバペースですよ。
しかし200メートル程度で修正出来れば全体への影響はまず無いと言っても良いでしょう、私がペースダウンの必要性を語りかけますと、程な くしてペースが一段落ちます。

この段階で私がペース修正の言葉を発した事により、Hさんのペースが適正になると共にもう一つのメリットがあるんですよ。
ペースを落としますよと宣言する事によりお互いにハッと我に返るんです(^o^)。

何度大会に参加しても、スタート直後というものは知らず知らずのうちに緊張しているものなんですね。
頭に血が上っているとも言えるかも知れませんが、一言語りかける事により頭からスッと血が引いて二人同時に我に返る事が出来ます。
正しいかどうかの根拠を皆さんに説明する事は出来ませんが、スタート後なるべく早い段階で二言三言会話を交わす事により緊張していた気持ち は消え去り、その後は我に返って走る事が可能になりますので、皆さんもぜひ実行してみて下さい。
緊張感が高まるビッグな大会ほど、その効果は絶大ですからお勧めです。

私がHさんに、ペースの助言を発するのは、たいがいこのスタート直後の一言と、中盤で一二回ペースを修正する必要がある旨伝えるぐらいです。
1レース中にペースについて助言するのは多くて二三回程度という事になります。
いろんな考え方がありますので、この回数が多いか少ないかは意見が割れるところですが、
同じ人とペアを組んでからの期間が長いほどペースについて語る回数は減る傾向にあると思いますね。

やがてトップランナーは、400メートル以上走りを進め最初のカーブを曲がっていきました。
私達にもその最初のカーブが目前に迫って来ています。
その最初のカーブを曲がりますと伴走者の仕事も増えてまいりますよ(^o^)。

最初のカーブに15メートルほど近づいたところで「ハイッ まもなく 3時の方向に曲がります」と宣言します。
そして私は伸ばされていたロープをたぐり寄せます。手の握りと手の握りがしっかり接触して強く結合されました。

そしてこの状態で腕を振らず、私の握り拳は腰の高さで私とHさんの中間あたりに固定されたように動かしません、石のように固く固定されてい ると表現しても良いと思います。
そして曲がり始めの少し前で「ハイッ 曲がります」と宣言し、その状態で曲がっていく事になります。
私の握り拳は私がコース取りする円弧のコースと一致した位置で動いていきます。
視覚障害者ランナーはその握られている拳の動きの中で、力のかかり具合の強弱を感知して難なく私に合わせるようにカーブを曲がっていく事が 可能となります。
カーブを曲がる時の円弧の大きさは、カーブが平坦な道路なのか或いは坂の途中にあるカーブなのかによって変わりますが、危険を伴うほどギリ ギリでなく、走行距離が大きく伸びてしまうほど大きな円弧でなく、走るスピードに連動して適切に対応していきます。
そして、曲がり終えて直線に入るわけですが、曲がりのピークを過ぎてから3時の方向に向かってHさんの向かうべき方向が定まるまでに多少の 歩数を走らねばなりません。
方向が定まるまで僅かながら左右にフラフラと揺れます、そのフラフラと揺れている動揺は伴走者の握り手に力の強弱で敏感に伝わってきますの で判断は容易です。
その左右への動揺が収まったところで私は「ハイッ OK」と動作の終了を宣言します。

そして続きまして、目の前に直線道路が延びているようでしたら「ハイッ ずーと直線」と語ります。

そして最後の動作として、私から強く接触していた握り拳をゆっくりと離していきます。
そして、通常の走りに戻ります。
つまり互いにロープの端を持って走り続ける事になります。

Hさんのペースも安定してきました。
ちょうど良いと思われるペースで順調に走りを進めています。
もうすぐ1キロ地点ですのでラップタイムが少しずれていたならそこで微調整をする事になります。

 

ここで、一気に伴走ノウハウを解説!!

霞ヶ浦マラソン大会に於ける最初のカーブも無事に曲がり終えました(^o^)。
後ろから私達の曲がり方を見ていて如何でしたか?見事な曲がり方だったでしょ(^^;)。

ただ、表現が少し解りにくかったと思います。
人間の動きを言葉で表現するのは本当に難しいですね、実際に目の前で動きを見て頂くとそれほど複雑な動きではないのですが(^^;)。

さあここから先は、伴走者の仕事もたくさん発生してまいります、しばらくは忙しいですよ。

それではここで霞ヶ浦マラソン大会の実際のコースを辿りながら、要所やポイント地点での伴走のやり方について、一気に解説させて頂きます(^o^)。
かなりの長文となりますが、しばらくの間頑張って解説にお付き合い下さいね。

1,ロープさばきの基本原則
2,カーブの曲がり方
3,緩やかなカーブの曲がり方
4,直線道路の場合、直線であると伝える
5,坂道での声のかけ方
6,何メートル手前で予告の声をかけるか
7,予告の為の予告とは?
8,1キロ毎のタイムの伝え方
9,ライバルの走りを戦略的に伝える方法
10,給水・給食の取り方
11,ランニングハイに気をつけましょう
12,中間点で伴走を交代する場合のロープの渡し方

それでは、個別に解説させて頂きます。

 

  • 1,ロープさばきの基本原則

    身体障害者スポーツ競技規則やその他の規則によるロープに関する規制は、長さ50センチ以内のロープを使用すると記載されているのみです。
    色は蛍光色のような派手なものは使ってはいけないとか、太さは何センチ以下にしなければならないとかうるさい事は書いてありませんね(笑)。

    伴走をするとは、“安全を十分に確保しながら視覚障害者ランナーの持ちうる走力を全て出し切れるように誘導指示しながら走りを進める事”と いう説明になると思います。

    実際の誘導指示の手法は、声による動作指示とロープによる動作指示との二つに集約されるといっても過言ではないでしょう。
    その二つの中でも、声は声による指示をする時以外はある意味では使ってない状態という事になりますが、ロープには常に視覚障害者ランナーの 意識のかなりの部分が注がれていますので、スタートからゴールするまで常に使い続けているという事になります。

    ロープを持つに際しての重要なポイントは、視覚障害者ランナーの意識はこのように常にロープに注がれていますので、私達伴走者もある一定の レベルで常にロープに意識を置いておかなければならないという事です。
    その根拠と必要性はこれからの解説で明らかにしていきますが、伴走者にとりまして、ロープに一定の意識を置き、前を見ながら走りを進めると いう作業は一定の経験を積まないと実現出来ない可能性もありますが、“伴走者もロープに一定の意識を置く” という事が、視覚障害者ランナー の走りを把握する為のベースになりますので皆さんも探求してみてください。
    前に参加した大会で見かけた事があるのですが、視覚障害者ランナーで黒いロープを使用しているのを見かけました。
    この黒は非常に目立ちにくい色ですので視覚障害者ランナーと伴走ランナーの間にランナーが侵入してしまう恐れがありますから避けた方が無難 です。
    やはり白が一番無難ですし、他にあるとすれば蛍光色のロープなんかも目立つかも知れませんね。
    目立つと言えば細いロープよりも太いロープの方が少しは余計に目立ちますね。
    そしてロープの質ですが、あまりクネクネした柔らかいロープよりもゴワゴワしたちょっと堅めのロープの方が私は扱いやすい印象があります、 これは個人差もあるでしょうが。

    ここで伴走の核心とも言える、ロープさばきについて書いてみたいと思いますが、このロープさばきを詳細に書こうとすれば、項目数もたくさん あり膨大な文字数を必要とするのではないかと思えますし、あの動きの感覚をどのように言葉で表したらよいかと言葉選びに悩んでしまいますが、 ここでは出来る限り簡潔に解りやすく書いてみたいと思いますが、ちょっとわかりにくい文面が登場するかもしれませんが御了承下さい。
    項目を絞り、主要な四項目を解説させて頂きます!!。

     

    A,リズムを狂わすような動きや力をロープに加えない
    B,突然に強くロープを動かさない
    C,小さな危険を予感したなら、ロープをたぐり寄せる
    D,進行方向をロープにより明らかにする事が最も重要

    それでは、個別に解説させて頂きます。

     

    • A,リズムを狂わすような動きや力をロープに加えない

      私も伴走を始めた頃に何度か体験したのですが、伴走者も人間ですから走っている時に体が痒くなったりするんですね(^^;)。
      ある大会でB1の選手を伴走している時の出来事ですが、走っているうちに太股の内側が無性に痒くなったんです、しばらく我慢していたのです がどうにも我慢が出来なくなってロープでつながれていない側の手で太股を掻いたんです、気持ち良かったです(笑)。
      そしたら視覚障害者ランナーが何事ですかと話しかけてきたんです、何か急を要する事態が発生したのではないかと心配したような声で。
      私の痒みは無くなりましたが、どうもその時にロープにつながれている側の腕も連動するように大きく動いてしまったようです(^^;)。
      それで視覚障害者ランナーも突然動いたロープに何事かと思われたようですね。

      皆様も経験がおありでしょ、お尻が痒くなったり、ふくらはぎが痒くなったりした事が、だからそのような時は腕の振りにくれぐれも注意しながら 掻いて下さいね(^^;)。

      例えば胸のあたりが痒くなって、そこを掻いたとしても、まさか反対側の腕まで連動して動く事は無いでしょうが、大きく腕を伸ばしたり上体をひ ねっての動作などでは要注意ですね。
      後ろを振り返って後方の様子を見ようとする場合も意外に腕の振りを忘れたりする場合がありますので気をつけねばなりません。
      ここでは、痒みを一つの例として取り上げましたが、視覚障害者ランナーにとりましてロープこそ命というほどに、握るロープと脳とは太い回路で 結ばれていてロープの僅かな異常な動きにも視覚障害者ランナーの脳にビンビン伝わり敏感に反応するようになっています。

      伴走をされている方はもう一度御自分の手の動きをレース中に意識してみて下さい。
      かなり不要な動きをしているはずですよ、もちろん私もそうですから人には強く言えませんが(^^;)。

      あくまで、つながれたロープは、一定のリズムで前後に動いているのみの状態が理想的な状態であって、視覚障害者ランナーもいたずらにロープに 意識を寄せる必要がなく前に意識を向けて走れる状態を意味しています。
      この状態が視覚障害者ランナーにとりまして安心で心地よい走りが出来る一時ですね。

      少しでもそのリズミカルな一定の動きに変化が起こると、視覚障害者ランナーにとっては何かの動きを指示される前兆と捉える結果につながってし まいますからね。
      つまり不必要に視覚障害者ランナーの意識がロープに注がれる結果となってしまいます。
      その意味では、B1選手を伴走する場合は伴走者自身もかなりロープに意識を置いておかなければならない事になります。

      もちろん、B2の選手でロープを長く伸ばした状態で走っている場合については互いに干渉する事が少ないのでB1ランナーよりも腕の動きに神経 質になる必要はありません。

       

    • B,突然に強くロープを動かさない

      ロープを短くつないでB1の選手を伴走している時に、伴走者は目の前に突然急な対応を要する危険が迫って来ている事を発見しました、危ない!!。
      伴走者はつながれたロープを頭で考えるより先に本能的にグイッと引いてしまいました(^^;)。
      そしたら視覚障害者ランナーが引かれたロープに連動するように大きく飛び跳ねて伴走者が今度はびっくりしたという様な経験はありませんか?。

      視覚障害者ランナーは伴走者が何の前触れもなく急に勢いよくロープを引いた為に反対側に何か急を要する危険が存在すると感知してのいわゆる本 能的な反射動作ですので視覚障害者ランナー自身にとりましてもびっくりした行動になる事があります。
      視覚障害者ランナーにとりまして、このような突発的で急激なロープに絡む本能的な避難動作は、目が見えないだけに相当に気を疲れさせてしまう 事につながってしまいます。
      そしてこのような事が何度も起こると視覚障害者ランナーにとっても相応のエネルギーロスと共に走りの集中力を削いでしまう事にもつながりかね ませんので注意を要します。

      このような時は出来る限り急ではあっても声による誘導指示を先行させ直ちにロープさばきに移行するという習慣をつける事が大切です。
      フルマラソンなどでは、30キロを過ぎると視覚障害者ランナーはもちろん、伴走者であっても相当に疲れて頭もボーとしてまいります、そんなフ ラフラした状態の中でどんなに突発的な危険が迫ろうとも直ちに口を先行させれば視覚障害者ランナーにとりましては本当に僅かな時間ではありま すが心理的に、直ちに対応の準備が開始されます、それだけドキッとする精神的衝撃が緩和される事は間違いのないところです。
      “緊急を要する避難動作であっても、常に語りかけを先行させるように努める”事をいつも頭の中に留めておきたいですね。

      私にはそれが出来るという雰囲気で、この文章を書いていますが私にもなかなか出来ません(^^;)、ナマズの様に危険予知能力もありませんし、目 は二個しかついてません(^^;)。
      いつまでたっても、ゴールするまでの全てに於いてしなやかに伴走をするという事は伴走者にとりまして命題の一つですね。

      “しなやかな伴走”良い言葉ですね(^o^)、難しいですけれどもその実現を目指して取り組んでいきたいですね。

       

    • C,小さな危険を予感したなら、ロープをたぐり寄せる

      例えばB2の視覚障害者ランナーが50センチの長さのロープで伴走者とつながれて一般的なアスファルト道路を走っている時に、道路工事に よる砂利道のデコボコした路面が目前に迫ってきたなら伴走者は「間もなく砂利道の悪路が迫っていますよ」と宣言した後にロープをたぐ り寄せると思います。これは砂利道による転倒を回避する為にほぼ全ての伴走者がそのような安全策を選択する事でしょう。

      予想される危険度にも大ざっぱに言って「上・中・下」というランク付けがあるとすれば、この道路工事などによる砂利道などの悪路を走るような 場合は当然の事ながら「上」の危険度に属し最も警戒を要する事例になるでしょう。
      一般的に「上・中・下」に属すると思われる危険度につきましては、ほぼ全ての伴走者がランクの多少の違いはともかくとして、危険を危険として 予見出来る事でしょう。
      そして、危険を予見出来ればまず声による危険回避動作の開始を宣言して、続いて対応する動作に移行する事になります。

      しかし、ここで取り上げますポイントは、ほぼ全ての伴走者が危険が迫っていると予見出来る「上・中・下」の危険度よりもさらに仔細な“危険で あるようなそうでないような”という言葉で表現されるような、かすかな危険についてどのように対応したら良いかという考察です。
      そのようなかすかな危険を“予想されるわずかな危険”と表現すれば、そのような事態はレース中に数え切れないくらいにひきも切らず発生してま いります。
      いや、ひきも切らず発生していると感ずる伴走者もいるかもしれないという表現の方が適切かも知れません。
      そして逆に“予想されるわずかな危険”を認知出来ない伴走者も当然いるという事になります。
      従いまして、伴走者によって危険回避行動をとる場合もあるし、危険回避行動をとらない場合もあるというように伴走者によって判断が分かれる可 能性があるという点がこの対処の特徴であると考えます。

      何故そのような差が発生してしまうのかと申しますと、もちろん伴走経験の深さというものも大きく影響しているでしょうが、もう一つ上げるとす ると“伴走者は目線をどこにおいて走るか”という事が絡んでいる事は間違いのないところですね。

      そのような“予想されるわずかな危険”の存在であっても不運な行動が重なって転倒に結びつく可能性も無いとは言えません。

      私の経験でも、大きくしっかりと見える危険というのは伴走者にもしっかりと把握出来ますので事前に構えて対応しますから、意外とアクシデント は少ないのですが、ささやかな危険の方がうっかり見落とすという事もありまして、より危ないという印象がありますので、ここで敢えてしつこく (^^;)解説させて頂いてます。

      ですから、より慎重により安全に伴走をやりたいと考える伴走者は必要に応じてロープをたぐり寄せて転倒を防止する動作に移行する事になるわけ ですが、そのロープをたぐり寄せる動作に移行するやり方には二つの方法があります。

      一つは、その“予想されるわずかな危険”の説明をした後ロープをたぐり寄せて安全を確保する。
      二つは、その“予想されるわずかな危険”の説明をしないでロープをたぐり寄せて安全を確保する。

      なぜ“予想されるわずかな危険”=“ロープをたぐり寄せる”なのかと言えば、視覚障害者ランナーが運悪く転倒する場合に於いてロープがしっか りとたぐり寄せてあれば、転倒する瞬間に伴走者が速やかにロープを手元に引き寄せる事が可能となり、視覚障害者ランナーが大きく倒れ込む可能 性は低くなるという事です。

      逆にB2選手でロープを長くしてつながれている時にいきなり転倒したなら伴走者はほとんど為す術も無く視覚障害者ランナーを転倒させてしまう 可能性があります。

      従いまして、ロープをたぐり寄せてあれば、アクシデントによる転倒時の衝撃をかなり緩和する事が可能です。

      “予想されるわずかな危険”を視覚障害者ランナーに説明する事を「説明」とすれば、ロープをたぐり寄せていくのは「安全を確保する為の動作」 ですね、最初のやり方では「説明」をした後に「安全を確保する為の動作」をするという二段構えとなっていますが、後のやり方では「説明」を省 略して「安全を確保する為の動作」のみを行っています。

      どちらでなければいけないとか、どちらが優れた伴走であるとかの評価は難しいですね。
      どちらのやり方で伴走をするかは、どの段階までの些細な“予想されるわずかな危険”を視覚障害者ランナーに伝えるかという要件も絡み、視覚障 害者ランナーのランナーとしての経験の深さとか走るスピードや目の障害の程度なども絡み非常に微妙な問題ではあります。
      簡単にこうするのが適切と一律に枠に当てはめる事の出来ない対応に個人差が発生してしまいがちなケースであると御承知下さい。
      又、それぞれの伴走者の伴走経験の深みと走るポリシーにもつながる平準化出来ない事でもあると思います(^^;)。

      強いていえば、前者は視覚障害者ランナーにしっかりと説明してから動作に移行するわけですので、視覚障害者ランナーも納得しながら走りを進め る事が出来ますし、丁寧な伴走が出来をするという点では素晴らしいものがあります、そしてこの方法はゆっくり走る視覚障害者ランナー向けの方 法だと私は思いますね。

      後者は、無駄なエネルギーは消費しないようにして、且つ安全は十分に確保するという方法です。競技志向の速く走る視覚障害者ランナー向けの方 法だと思いますね。
      そして視覚障害者ランナーと伴走ランナーがお互いに長い年月ペアを組んで走り込んでいる事による相手への信頼感がしっかりと出来上がっている 場合に成立する伴走手法であると言えるかも知れません。
      不要不急なコメントは出来る限り排除して走りに集中するという考え方です。

      私は長い年月に渡ってペアを組んで走っている視覚障害者ランナーの伴走をする事が多い為に後者のやり方で伴走するケースがほとんどです。
      もちろん、共に走る回数がごく僅かであれば前者の方式に従う事でしょう。

       

    • D,進行方向をロープにより明らかにする事が最も重要

      山岳レースでもない限りコースの道のりを検証してみれば、やはり平坦な直線道路部分が一番長いのではないでしょうか。
      (視覚障害者ラン ナーが全く感知出来ないほどの緩やかな曲がりも直線と捉えていっこうに差し支えありません)
      従いまして、この直線道路をいかに上手く伴走するかという事が伴走者にとりましては最も重要です!!。
      エッ本当?“伴走をする”とはカーブとか坂道の誘導の方が重要ではないの?
      という方がいらっしゃるかもしれませんが、誰がなんと言おうとも絶対に直線が最も重要です(笑)。

      ちょっと語気が強すぎましたが(^^;)、最も長いと思われる直線をエネルギーをロスせず気も遣わずにリラックスした気分でスピードに乗った走りが 出来れば、これは一般ランナーであろうと視覚障害者ランナーであろうと良い結果が出せる可能性は高いですね。

      直線道路は視覚障害者ランナーにとりましては、ある意味で広大な砂漠に点在するオアシスみたいなものではないでしょうか(笑)。
      スタート直後に見られるような視覚障害者ランナーの前や後にたくさんのランナーが密集して走っている場合はその限りではありませんが、前や後 にチラホラと選手が走っている程度で抜きつ抜かれつもなく選手の流れが安定しているケースなどでは直線道路というのは視覚障害者ランナーにと りまして心理的に非常に安心して走れる場所であると思いますね。
      ですから、私達伴走者はこの直線道路部分をいかに有効に使い、上手くスピードに乗って走ってもらうかに創意工夫を重ねなければなりません。

      もちろん、直線であろうと無かろうと伴走するに際し視覚障害者ランナーに進行方向はどちらかという事をいつでもどこでもキッチリ把握してもら う事は大切な事ですが、中でもコース上では直線道路が最も多いわけですので、直線道路での伴走技量が視覚障害者ランナーの走りに大いに影響を 与えるという点は間違いのないところです。
      伴走者の方々からは、何を言っている我々は前を向いて真っ直ぐ走っているではないかとお叱りを受けそうですが、それは目が見える人の言い分な んですね(^^;)。

      一般的にB2選手の中にはセンターラインの方向などの状況から直線道路である事が微かではあっても認識出来るというランナーはいらっしゃいま すのでB2選手についてはあまりシビアに捉える必要はありません。
      しかし、全盲のB1選手に於いては直線というものは全く認識出来ません。

      如何なる場合であろうとも、B1選手にとりましては我々伴走者が表現しているところの直線道路とは、あくまでも “左右への変化がない状態が連続 している” と把握しているにすぎません。

      従いまして、危険ですからやった事はありませんし絶対にやってはいけませんが、直線道路でB1ランナーが走っている最中にいきなりロープを離し たなら、とたんに左か右に曲がって行ってしまうでしょう、直線を走ることは一見簡単そうに見えますが、目が全く見えず直線方向を指し示す音も 存在しなければ、これは本当に難しいの一言に尽きますね。

      皆さんも子供の頃に一度はやってみた事があるでしょ!。
      夏の海水浴場に行った時に、目隠しをしてわずか5メートル先のスイカを割る事が出来ましたか~(^^;)。

      ではどのように直進、或いは進行方向を把握してもらうかという話になりますが、一つの例として何年か前の大会で見たことがありますが、視覚障 害者ランナーの中には別の伴走者に少し前を走ってもらい鈴みたいなものでカランカランと音を鳴らして、その音を目標に前進するといった走りを 見た事があります。
      それはそれで良いアイデアだなと感心しましたが、少なくとも伴走者が常に二人必要になりますので伴走者を確保する点で少し敷居が高くなるかな と感じました。

      従いましてそのような方法はとらず、単純明快に伴走者が“伴走者の腕の振りの中で進行方向を表現”していきます(^o^)。

      私達のランニングフォームというものは、腕を前後に振っていますが純粋に前と後ろに振れているわけではないですね、前に出すに従って体の中心 部分に近づいてきます。
      又、後ろに振れるに従って外側に広がっていきますね。
      女性の場合にはその傾向が強いですね。振った腕が一番前に来た時には臍の前だったなんていうランナーも見受けられます。
      人間の体は構造的にはそのようになっているんでしょうね。だとすれば、B1選手の多くがそうであるようにロープが短くつながれている状態では、 互いに引っ張り合ってしまう事になりかねませんね、これでは互いに走りにくくてしょうがないです。

      そこで私はどのように腕を振っているかと申しますと、視覚障害者ランナーと伴走者の二人の中間の位置を前後に行ったり来たり振っています。 視覚障害者ランナーも伴走者もそれぞれ自分側に手を振れないわけですので多少やりにくいですが、五分五分の痛み分けといえるかもしれませんね。

      従いまして、振られている腕の体から前の動きは常に道路上の私達のこれから走っていくべき方向、つまり直進であるとか緩やかな曲がりを進む時 の円弧の方向を指し示しているというわけです。

      この“伴走者の腕の振りの中で進行方向を表現する”事が、全ての伴走ノウハウの中で最も重要なポイントであると御承知下さい。

      なぜ最も重要か?
      おかしな話しに聞こえるかもしれませんが、伴走者に依存しないで走ってもらう為です(^^;)。
      視覚障害者ランナーに、より主体的に走りを進めてもらう為という表現でも良いと思います。
      視覚障害者ランナーに、より多くの意識を前に向けて走ってもらう為という表現でも良いと思います。

      走るには推進力を得るためにも腕は振らなければなりませんが、同時に、
      繰り返しになりますが、視覚障害者ランナーの伴走の場合で特にB1選手の場合は“伴走者の腕の振りの中で進行方向を表現する”事が全伴走ノウ ハウの中で最も大切だという事はしっかりと頭に入れておいてください。

      この表現でお分かりになりますか(^^;)。
      その上で、視覚障害者ランナーの側からその事を見てみますと、視覚障害者ランナーはロープから伝わる力を感知する中で、緩くなれば伴走者に近 づきつつある、そして引っ張りの力がかかれば伴走者から遠ざかりつつあると感知出来るのではないでしょうか。
      その事により、視覚障害者ランナーは、ロープから伝わるテンションの強弱でいつでもどこでも瞬時に進行方向を把握出来るというわけです(^o^)。

      B1選手の伴走をしている場合に於いて、あまり手を振らないペアを見かける事があります。
      ここで書いてきましたように、手を振らないと視覚障害者ランナーには進べき方向が定まりにくくなってしまいます。
      それはある意味で、より伴走者に依存した走りになってしまうのではないでしょうか?。
      視覚障害者ランナーの自主的な走りを弱めてしまいますし、自ら前に進むという推進力を削いでしまうことになりかねません。

      従いまして、B1選手の場合は特に腕を振る習慣をつける事をぜひお勧めしたいですね。

      B1選手の中には視覚障害者ランナーの腕と伴走者の腕をこすりつけるようにして、伴走者の位置を把握しながら走る人がいますが、この方式も腕 の振りがないために推進力を大きく削いで走ることになりますので本来持っている走力を出し切れません、それでは惜しいですよね。
      ですから、可能であれば腕を振る方法に変更をお勧めしたいところです。

      しかし、これらは強制して直すべきものでない事は申すまでもありません。
      どのような習慣による変則的な走りでも、本人が最も安心して走れると感じてのフォームなのですから、いたずらにフォームに手をつけるべきでは ないという事は申すまでもありません。

      腕振りが出たついでに、もう少し腕振りについて探求しますと、フルマラソンのように長い距離を走る場合には、伴走者と視覚障害者ランナーとの 腕振りが合うかあわないかは非常に重要となってきます。
      わずかな腕振りの動きの差が、積もりつもって後半の走りに大きく影響しないとも限りません。
      視覚障害者ランナーが腕振りできないというのが、最も影響大ですので、その点をチェックしてみる必要がありますね。

      ストライドも人それぞれ、腕振りも人それぞれに違います。
      視覚障害者ランナーと伴走者が鏡に映したように一致した動きが出来ればベストですが、そんな事は双子の兄弟でも不可能でしょう。

      このように、二人の動きをピタッと合わせること自体不可能に近いですが、例え違っていたとしても、ある程度合わせることは可能ですし絶対に 必要です。

      まずは、腕振りの軸としての肩の位置を二人が合わせる必要があります。

      例えば、私もランニングフォームは前傾姿勢が強く前に倒れているようなフォームで走りますが、私が視覚障害者ランナーのピタリ横に並んで走 ることになりますと、肩の軸の位置では私が5センチ程、視覚障害者ランナーよりも前に出てしまいます。
      そうなると、腕振りが同じストロークの動きをしても、視覚障害者ランナーは後ろの方に腕振りが十分に出来なくなってしまいます。

      推力を生み出すための腕振りは、どちらかといえば前よりも後ろの方が大切ですから、後ろに十分腕振りできないというのは問題であり是正する 必要があることを認識する必要があります。

      そこで、私の場合は視覚障害者ランナーよりも5センチ後ろに後退したら良いということになります。
      そうすると、二人の肩の軸が通るということになりますので、二人とも十分に腕振りが出来る可能性が高くなります。

      伴走に対する競技規則でも、伴走者は視覚障害者ランナーの前に出てはいけないとなっています。
      全く前に出ないで走るなどということは、神業に近く不可能ですよね。
      坂道の所で、カーブの所で、給水を取る所で、悪路が始まる前後の所で‥‥‥。
      意図しなくても、伴走者は前に後ろに常に前後にぶれて走らざるを得ません。
      しかし、同じ前後する場合でも、伴走者は後ろ側にぶれるように気をつけて走れば、より視覚障害者ランナーにとっては走りやすいと言うことに なりますね。

      少し、横道にそれてしまいました(^^;)。
      元に戻しましょう。

      それでは、B2選手の場合にはどのように対応しているかと申しますと、お互いに長さ50センチほどのロープにつながれているわけですから、 B1選手のように微妙な動きが敏感に伝わる事はありませんね。
      ですから余り神経質になる必要はありませんが、B2選手に進行方向を伝える方法は、視覚障害者ランナーが“コース上最も安全で有利だと思え るルート”を走れるように自身のルートを選びながらキッチリと堂々と走る事です(^^;)。

      その走りの中でロープにテンションがかかれば視覚障害者ランナーは伴走者から離れつつあると認識しロープが弛めば伴走者に近づきつつあると 認識出来るわけです。
      視覚障害者ランナーは常にロープにかかるテンションの強弱で自分の進むべき進行方向を把握しながら走りを進めるという事になります。

      “コース上最も安全で有利だと思えるルート”を視覚障害者ランナーに走って貰うようにする事は、B1選手B2選手共に共通する重要な要件で ある事は間違いありません。
      “コース上最も安全で有利だと思えるルート”とは、少しでも短い距離を走れるようなルートは当然ですし、他のランナーが急に走路変更をして も影響を受けないようなルート、走行車両や歩行者の急な飛び出しなどの影響を受けにくいルート、大会によっては、アスファルト路面のワダチ がきつかったり、アスファルト路面が荒れていたり、雨の日は水たまりの出来やすいルートがあったり、マンホールやセンターラインなどを踏ま ないように注意したり、路肩に土が堆積していたり、それらが複合的に絡む道路もたまにありますが、一番良いと思われるルートを視覚障害者ラ ンナーに走ってもらうようにするというわけです。

      そして“コース上最も安全で有利だと思えるルート”上を走る為には、B1選手については完全に伴走者がそのコース取りの決定権を握っている 事は理解して頂けると思いますが、B2選手に対してはまれにではありますが視覚障害者ランナーにつかず離れずという距離を伴走者側で調整し ているのを見かけますが、それでは視覚障害者ランナーを“コース上最も安全で有利だと思えるルート”上を走らせる事は到底出来ません。

      それに、それではかえって視覚障害者ランナーがフラフラしてしまう原因にもなり走りにくくなってしまいかねませんので、B1選手と全く同じ ように視覚障害者ランナーが“コース上最も安全で有利だと思えるルート”を走れるように適正なコース取りをし、伴走者が主体的にキッチリと 走ることです。

       

  • 2,カーブの曲がり方

    視覚障害者ランナーに少しでも速く走ってもらう為には、障害となる要件を排除しなければなりませんが、中でも大きく影響を受けると思われる 事が2点ほど考えられます。

    一つはカーブなどを曲がるときのスピードダウン、そしてもう一つが給水・給食を取る為のスピードダウンではないでしょうか。
    その意味に於いて、マラソン大会のコースにもよりますが比較的回数の多いカーブをスピードダウンせずにスムーズに滑らかに曲がっていく事は 非常に重要です。

    ここでは、カーブの滑らかなそしてスムーズな曲がり方を解説してみたいと思います。

    視覚障害者ランナーにとりまして直角に曲がる事は比較的把握しやすく実行しやすいようですね。難しいのはやはり2時の方向とか、11時の方 向などのように直線と直角の間にある曖昧な角度を曲がる時ですね。

    実際2時の方向といいましても2時の中には60分の幅がありますし、まさか2時40分の方向に曲がりますとも言えませんよね(^^;)。
    さらには2時の方向だと予告の宣言を発した私が本当に正確なのか、たまにではありますが自信がない時があります(笑)。
    前方の道路がよく見えない事もあるんですよね、それでもカーブはどんどん迫ってきて予告の宣言を発しなければならないタイミングになったり するわけです。
    ですから、2時ですと宣言しておけば視覚障害者ランナーが自動的にその方向に曲がってくれると思うのは甘いですね(笑)。

    このカーブを曲がる時に、私は皆さんと違った方法で対応しているのではないかと思いますので、私のやり方をちょっと書いてみたいと思います。
    お手本となるかどうかは別として(^^;)。

    それでは、一緒に2時の方向に曲がってみましょう。
    よく見ていてくださいね、芸が細かいですからね(笑)。

    B1選手の場合は、原則として短くロープをつないでいるはずです。手の握りと握りが近い位置にあります。
    カーブが近づいてまいりまして、カーブの手前15メートル辺りで「ハイッ まもなく2時の方向に曲がります」と宣言します。
    ここまでは皆さんも同じでしょうが、曲がる直前になりますと私はつながれているロープをもう一回手の中に巻き付けます。
    (※適切な表現が見つかりません、解りますか?)

    ちょっと表現が解りにくいかもしれませんが、要は私が視覚障害者ランナーの手の握りをさらに上から強く握るようなものです。
    これにより私と視覚障害者ランナーは手の握りを通してしっかりとつながれた状態になります。

    そして曲がる手前で「ハイッ 曲がります」と宣言した後に、私がしっかりと握っている拳を基準に走路上を円弧を描きながら曲がっていきます。

    視覚障害者ランナーにとりまして握られている拳の動きの中で力のかかり具合の強弱を感知しながら難なく私に合わせるようにカーブを曲がって いく事が可能となります。

    カーブを曲がる時の円弧の大きさは、カーブが平坦な道路なのか或いは上り坂・下り坂の途中にあるカーブなのかによりまして変わってきますが、 危険を伴うほどギリギリでなく、走行距離が大きく伸びてしまうほど大きな円弧でなく、走るスピードに連動して適切に対応していきます。

    この曲がりでスピードを落とさず、又滑らかに曲がっていくのがプロというものですよ(笑)。

    そして、曲がり終えて直線に入るわけですが、曲がりのピークを過ぎてから2時の方向に向かって視覚障害者ランナーの向かうべき方向が定まる までに多少の歩数を走らねばなりません。
    方向が定まるまでは僅かながら左右にフラフラと揺れます。そのフラフラと揺れている動きは伴走者の握り手に敏感に力の強弱で伝わってきます ので判断は容易です。
    その左右への動揺が収まったところで私は「ハイッ OK」と動作の終了を宣言します。

    この曲がりで注意しなければならない重要なポイントは、“伴走者が視覚障害者ランナーの走りに合わせて走る速度を微調整する”必要が出てま いります。

    どういう事かと申しますと、例えば右に曲がる場合は、曲がり始めから曲がり終えるまでの走行距離を計ってみますと、視覚障害者ランナーより も伴走者の方が少しだけ距離を長く走ります。
    視覚障害者ランナーよりも少しだけ大きい円周上を走るわけですからね。

    従って、視覚障害者ランナーの走る速度を落とさずに曲がっていくとすると、伴走者は少しだけ曲がるときにスピードアップしないと視覚障害者 ランナーの横に並んで走りを進めることが出来ません。
    ですから、右に曲がる場合は伴走者が走る速度を少しだけ速めると覚えておいて下さい。 

    今度は逆の左側に曲がっていく場合は、視覚障害者ランナーの速度を基準にしますと、伴走者は視覚障害者ランナーよりも走る距離が少ない為に 同じ速度で走りを進めると視覚障害者ランナーの前に出てしまいます。
    つまり視覚障害者ランナーを引っ張るという事になってしまいます。
    ですから、カーブを左に曲がる場合は伴走者が走る速度を少しだけ抑えて走ると覚えておいてください。
    この曲がりに際しての速度調整はなれてしまえば、それほど難しいものではありませんので安心してください。

    そして続きまして、目の前に直線道路がずーと伸びているようでしたら続けて「ハイッずーと直線」と語ります。
    なぜこの言葉を語りかけるかと申しますと、これは前にも書きましたが直線であるという事は視覚障害者ランナーにとりましてそれだけで安心感 を持って走りに集中する事が出来るからです。

    そして最後の動作として、私から上から被せていた握り拳を離して、通常のロープのつなぎ方に戻ります。
    そして私からしっかりと前後に腕を振り始めます、再び通常の腕振りをしますよと促すわけです。

    最初の二三振りはその事をはっきり伝える為に少しだけオーバーに振ります。
    (実際に見て頂くと直ぐに理解出来る事柄であると思いますが、文書では細かい動きが完全に表現しきれていません、御了承下さい)
    B2のHさんの場合はどのようにして2時の方向に曲がっていくかと申しますと、通常は50センチ程のロープでつながれて走っているわけですね。

    カーブが近づいてまいりまして、曲がる手前15メートル辺りで「ハイッ まもなく2時の方向に曲がります」と宣言します。ここまでは皆さん も同じでしょうが、宣言をした後につながれているロープを今度はたぐり寄せます、そうすると私の手の握りとHさんの手の握りは強く接触する 事になります。
    この接触の強さは引き締めるロープの強さにより変わってきますが、出来るだけ握りと握りを一体化させる為に強く引きつけます。
    これにより私とHさんは手の握りを通してしっかりとつながれた状態になります。

    そして曲がる手前で「ハイッ 曲がります」と宣言した後に、私の握り拳を基準に走路上を円弧を描きながら曲がっていきます。

    Hさんはその握られている拳の動きの中で力のかかり具合の強弱を感知しながら難なく私に合わせるようにカーブを曲がっていく事が可能となり ます。

    カーブを曲がる時の円弧の大きさは、カーブが平坦な道路なのか或いは上り坂・下り坂の途中にあるカーブなのかによりまして変わってきますが、 危険を伴うほどギリギリでなく、走行距離が大きく伸びてしまうほど大きな円弧でなく、走るスピードに連動して適切に対応していきます。

    そして、曲がり終えて直線に入るわけですが、曲がりのピークを過ぎてから2時の方向に向かって視覚障害者ランナーの向かうべき方向が定まる までに多少の歩数を走らねばなりません。
    方向が定まるまでは僅かながら左右にフラフラと揺れます。そのフラフラと揺れている動きは伴走者の握り手に敏感に力の強弱で伝わってきます ので判断は容易です。
    その左右への動揺が収まったところで私は「ハイッ OK」と動作の終了を宣言します。

    この曲がりで注意しなければならない重要なポイントは、“伴走者が視覚障害者ランナーの走りに合わせて走る速度を微調整する”必要が出てま いります。

    どういう事かと申しますと、例えば右に曲がる場合は、曲がり始めから曲がり終えるまでの走行距離を計ってみますと、視覚障害者ランナーより も伴走者の方が少しだけ距離を長く走ります。
    視覚障害者ランナーよりも少しだけ大きい円周上を走るわけですからね。

    従って、視覚障害者ランナーの走る速度を落とさずに曲がっていくとすると、伴走者は少しだけ曲がるときにスピードアップしないと視覚障害者 ランナーの横に並んで走りを進めることが出来ません。

    ですから、右に曲がる場合は伴走者が走る速度を少しだけ速めると覚えておいて下さい。

    今度は逆の左側に曲がっていく場合は、視覚障害者ランナーの速度を基準にしますと、伴走者は視覚障害者ランナーよりも走る距離が少ない為に 同じ速度で走りを進めると視覚障害者ランナーの前に出てしまいます。
    つまり視覚障害者ランナーを引っ張るという事になってしまいます。
    ですから、カーブを左に曲がる場合は伴走者は走る速度を少しだけ抑えて走ると覚えておいてください。

    そして続きまして、目の前に直線道路がずーと伸びているようでしたら続けて「ハイッずーと直線」と語ります。

    そして最後の動作として、私から強く接触していた握り拳をゆっくりと離していきます。

    HさんなどB2選手の場合はロープを伸ばすことにより腕がフリーになりますので私から視覚障害者ランナーの腕の振りを促すという事はありま せん、その点がB1と少し違いますね。

    そして通常の走り、つまり互いにロープの端を持って走り続ける事になります。

    如何でしょうか?、解りにくい表現があったと思いますがご理解頂けましたでしょうか(^^;)。
    これが私のカーブを曲がる為の全ノウハウです。
    競技志向の視覚障害者ランナーに必須の曲がり方であると自負しています(^^;)。

     

    それから、視覚障害者ランナーがまだ初心者的なレベルであれば、カーブを曲がる時などに「後15メートルで右に曲がります」というように予 告宣言の中に曲がる為の動作を開始するまでの距離を表現する事はいっこうに構いませんが、走るスピードが速くなるに従って距離よりもタイミ ングの方がより重要性を増してきます。

    視覚障害者ランナーは現実に目視する事の出来ない15メートルという距離を把握する事よりも時間を把握する事の方が容易ですので、レース中は予告宣言や動作のタイミングを均一にするように努める事をお勧めします。
    伴走者の語りかけのタイミングはもちろんそうですし、続くロープさばきの各種動きもタイミングを均一にするように努めます。
    大切なのは、距離ではなくタイミングの均一化ですよ(^o^)。

    ゆっくりランナーの場合は、必ずしもこのようにしなくてもいっこうにかまいません。
    安全が第一ですからね、無理して飛ばしても全体のゴールタイムが大幅に改善されるとはあまり考えられないので(^^;)、ゆるりと十分に安全を確 保しながら曲がって下さい。

    ランニング初心者ほど速いスピードでカーブを曲がったりすると足首や膝の靱帯などを痛める事もありますので無理は禁物です。
    特にトレッドミルなどのマシンでの走り込み練習の割合が多い視覚障害者ランナーは要注意ですよ。
    前進する為の筋肉(靱帯)しか鍛えられていませんからね。

     

    カーブを曲がる時のポイントは、
    1,スピードを落とさないように曲がっていく。
    2,伴走者の握り拳が基準となって円弧上を曲がっていく。
    3,視覚障害者ランナーの速度に伴走者が微調整して合わせる。
    4,伴走者にコース取りを任せておけば安全に曲がる事が出来ると全幅の信頼をしてもらう。

    この四項目に気をつけて頂ければ万全ですね(^o^)。

       
    ※陸上競技場400メートルトラックでの走り方
    今まで書いてきた曲がりへの対応は一般道路でのやり方ですが、400メートルトラックでのコーナー部分の走り方については一般道路でのそれ と大きく異なります。

    ここでその400メートルトラックでの走り方(直線やコーナー部分)についても全て書いてしまいたいところですが、現在トラックでトレーニ ングされている視覚障害者ランナーも少ないと思いますし、コーナー部分の伴走の仕方も一般道路よりも更に言葉で表現しにくい動きとなってい ます。
    このレポート全体の文面が非常に錯綜してしまいかねませんので、400メートルトラックでの走り方については次の機会に書かせて頂きたいと 思います。
    直接私に声を掛けて頂ければいつでも一緒に400メートルトラックを走ってみますよ。
    声をかけて下さいね(^o^)。

     

  • 3,緩やかなカーブの曲がり方

    カーブと言えば、「3時の方向に曲がります」とか「10時の方向に曲がります」に代表される直角などの角度で折れるように曲がっていくカー ブと、もう一つは、非常に緩やかに曲がっていくケースが考えられますね。
    道路上を緩やかに曲がって進むこれらの“緩やかな曲がり”についてはB1・B2のランナーのほとんどが曲がりであると認識出来ない程の大き く緩やかな曲がりもあります。

    B1選手では、400メートルトラックのコーナー部分さえもゆっくり走れば認識出来ない事も多いです。それくらいにゆっくり目のペースでは 緩やかな曲がりは認識出来ないものなのですね。
    道路が曲がっているかいないかの認識は、走るペースによってずいぶんと違ってくるという事は、しっかりと頭に入れておく必要があります。

    ですから、円弧の半径の長さにもよりますが、緩やかであればあるほど伴走者は直線として対応しても差し支えない状況となります。

    ある意味では緩やかな曲がりである事を視覚障害者ランナーに伝える必要がない場合もあります、実際私もS字型にクネクネした道路などで、ち ょっとだけロープさばきで操作して、視覚障害者ランナーには直線であると認識させながらほぼ直線的に突っ切って走る事も時々ありますね。
    (もちろんセンターラインを越えるような事があってはなりません)

    しかし緩やかに右に曲がっていくような道路に対し、道幅の左端を走らせる伴走者はいませんよね、あくまで右側にあるセンターラインぎりぎり の所を走れば最も短い距離を進む事が出来るからですね。
    ですから伴走者は、このような緩やかな曲がりに際しては余分な距離を走ってしまわないように、緩やかな右カーブなら道路右側寄りを走らせ、 緩やかな左カーブなら道路左側寄りを走らせる事になります。
    つまり緩やかな曲がりでの対応では、最短距離を走ってもらうというのが主要な要件ですね。
    そして、その時に緩やかな曲がりである事を伝えるか伝えないかは伴走者の判断で決めて良いと思います。

    では、緩やかに右に曲がっていくカーブの場合を例に上げ、その時の伴走者の語り方ですが、私は次のように語ります、B2の場合などは皆さん の語りかけとは全く違った表現かも知れません。
    それでは、緩やかな曲がりを一緒に走ってみましょう(^o^)。

    B2のHさんに対しては、
    緩やかな曲がりが始まる15メートルほど手前に達しましたら「ハイッ 右側に 寄って下さい」と宣言します(^^;)。
    この宣言の後、Hさんは「緩やかに右に曲がって行くんだな」と理解し、徐々に右側に寄って行きます。

    Hさんはセンターラインが見えますからセンターラインが確認出来たところで横への移動は止めてセンターラインに沿って走りを進めていきます。

    そして曲がりが終了したら「ハイッ 終わり」と宣言します、但し緩やかな曲がりが1分とか2分と長く続いた場合は、今の終了宣言が何を指し ているのか解らなくなる恐れもありますので、その可能性がある場合は「ハイッ 緩やかな曲がり終わり」と宣言します。
    左に緩やかに曲がって行く場合も同じようにやります。

    続いて直線道路が300メートル程延びていると思われるようなら次のように語ります。
    「ハイッ 直線300メートル」と宣言します。

    私はこの“直線宣言”をカーブを曲がり終えた時や上り下り坂が終了した時点、その他必要に応じてなるべく多く宣言するようにしています(^^;)。

    Hさんを含むB2の選手の対応を解説させて頂きました。

    続きましてB1の選手の場合には、次のように対応します。
    笑わないでくださいね(^^;)。

    緩やかな曲線が始まる15メートルほど手前に達しましたら「ハイッ 間もなく 緩やか~~~に右に曲がって行きます」と宣言します(^^;)。

    B1選手の場合はその宣言の中の「 ~~ 」のように声を伸ばす部分が重要です(笑)。
    そんなに重要でもないか(^^;)。
    緩やかであればあるほど声を伸ばすわけです、呼吸がちょっと辛いですけど(笑)。
    その伸ばす長さにより視覚障害者ランナーは曲がりの緩やかさを推測するわけです。
    これはそんなにこだわってやるほどのものではありませんが、一応そのように私は長さを調整しながら宣言を発しています。

    この宣言の後、視覚障害者ランナーは「緩やかに右に曲がって行くんだな」と理解し、私自身が緩やかに右側に寄っていく事もありまして二人が 徐々に右側に寄って行きます。

    そして緩やかな曲がりが始まった頃「ハイッ 曲がっていきます」と開始を宣言します。

    そして曲がりが終了したら「ハイッ 終わり」と宣言します、但し緩やかな曲がりが1分とか2分と長く続いた場合は、今の終了宣言が何を指し ているのか解らなくなる恐れもありますので、その可能性がある場合は「ハイッ 緩やかな曲がり 終わり」と宣言します。
    左に緩やかに曲がって行く場合も同じようにやります。

    続いて直線道路が300メートル程延びていると思われるようなら次のように語ります。
    「ハイッ 直線300メートル」と宣言します。

     

  • 4,直線道路の場合、直線であると伝える

    私達伴走者が最も見落としがちな点をここで書いてみたいと思います。

    私達伴走者には曲がり終えた後などで、目の前を見ると真っ直ぐに伸びる直線道路は見えます、しかし前にも書きましたようにB1選手などには 曲がり終えた先に何があるのかさっぱり解りません。
    伴走者は何も指示しないし、変化がないから多分直線だろうと推測しているに過ぎません。

    私の伴走での語り方を読んで頂くと御理解頂けますように、目の前が直線道路の場合には何かにつけて“直線宣言”を出していますね(^o^)。

    直線道路を「直線」と宣言する事で視覚障害者ランナーは安心して走りを進める事が出来ると考えるからです。
    「そうか300メートルも真っ直ぐに進むだけでよいのか」と思ってもらえば成功です。
    気持ちを前だけに集中して走りを進める事が出来るので走りやすいのではないでしょうかね。

    私達伴走者が最も見落としがちな点は、カーブや坂の始・終点や給水所、キロ表示ポイントなどではしっかりと指示を出しているでしょうが、コー ス上に圧倒的に多いと思われる直線部分の状況についてほとんど何も視覚障害者ランナーに語っていないのではないでしょうか(^^;)。

    確かにカーブや緩やかな曲がり、坂道への対応なども大切である事は間違いありません、しかし例えば霞ヶ浦マラソンコースを4時間30分で走る 選手にとりまして曲がりや坂道などいわゆる転倒リスクの高い場所の対応に追われる時間を多く見積もって1時間程度だとすると、残り3時間30 分はおおむね直線道路上を真っ直ぐに走っているという事になります。
    コースの中には30メートルだけの直線、50メートルだけの直線など小刻みな直線も多数見受けられますが、先が見通せないほどの直線も数多く 存在します。(前にも書きましたが視覚障害者ランナーが曲がっていると認識出来ない走路も直線に含めます)

    もちろん、私も直線の全てを伝えているわけではありません、それをやろうとすればより多く語らねばならず疲れてしまいます。
    Hさんなどのようにトップレベルの視覚障害者ランナーを伴走するにはちょっとしんどくなってしまいますね。ですから何も語らない部分は直線道 路らしいと視覚障害者ランナーに推測してもらいながら走って頂くのは決して無茶なことではありませんが、ポイントポイントの動作が終了した時 点で「終了しました」とだけ伝えるのではなく、続けて“先はどうなっているか”も併せて語りかければ、視覚障害者ランナーも安心して前に走り を進める事が出来るのではないでしょうかね。

    私達伴走者の仕事は、“安心して走ってもらう距離を如何に伸ばすか”という事でもあるわけですから。

     

  • 5,坂道での声のかけ方

    次に進みまして、上り坂下り坂についての対応を解説させて頂きます。
    ここでも皆さんと少し表現が違うかも知れませんね(^^;)。

    ここでは、B1・B2共通です。

    まず坂は次のような種類に分類出来ると思います。

    A,上り坂と下り坂がセットになっている坂道
    B,上った以降はずっと水平道路が続いている坂道
    C,微かに上っているような緩やかな坂道
    D,坂道に共通する注意事項

    それでは、それぞれ解説させて頂きます。

     

    • A,上り坂と下り坂がセットになっている坂道
    • A-1,上ってから下る “山” の坂道

      まずは、跨線橋のように上り坂と下り坂がセットになっている坂道です。

      ※跨線橋(こせんきょう)とは、鉄道線路の上を横切って架けた橋。
      渡線橋と表現する場合もあります。もちろん全ての跨線橋が上り坂と下り坂がセットになっているアーチ型をした橋でない事は申すまでもあり ません。

      ここで言う跨線橋は、霞ヶ浦マラソンでは1キロを過ぎた所に一カ所、それと7キロ地点にもう一カ所ありますね。

      このように上ったら必ず下りる坂道に対しては、私は“山を越える”と表現していきます。
      視覚障害者ランナーにとりましては、「上ったなら、必ず同じぐらい下るんだな」と理解出来るはずです。
      もちろん「150メートル上ってからすぐに同じぐらい下ります」と宣言しても良いのですが、言葉が長すぎて一息では話しきれないかも知れま せんので疲れてしまいますね。
      他の伴走者もそうでしょうが、いかに発する言葉の文字数が少なくて的確に内容を表す言葉を選ぶのに苦労していると思います。

      言葉が短ければ、視覚障害者ランナーにとりましては、耳での聞き取りに長い時間集中する必要がありませんし、速やかに次の動作の把握が出来 ます。
      伴走者にとりましては、一呼吸の中で容易に語れますので呼吸が楽ですし、疲労度も少なくなるでしょう。
      私の伴走でも、語る言葉のほとんどが確定していますのでいつも決まっていますが、相変わらず今でも理想的な言葉を探しているポイント動作も あります。
      まだまだ時間を必要としますが、理想的な“伴走用語”を見つける為にこれからも試行錯誤していきたいと考えています。

      話が少し逸れてしまいました(^^;)、跨線橋に戻ります。

      必ず上ったら下りる跨線橋であっても「まもなく上り坂です」だけしか宣言しなかったらどうでしょうか?
      上りきったら何があるんだろうとついつい考えてしまうでしょう(^^;)。

      視覚障害者ランナーは「その先には何があるんだろう」と常に関心を寄せて走っていますからね。
      語りかけの言葉が、“先の先まで”的確に表現されているなら、理想的な表現だと思いますよ。

      それでは、霞ヶ浦マラソン大会コース上の1キロ地点にある跨線橋を一緒に上ってみましょう、遅れずについてきてくださいね(^o^)。

      坂が始まる15メートルほど手前で「ハイッ 間もなく山を越えます 150メートル」と宣言します。
      上りが始まる少し手前で「ハイッ 上ります」と宣言します。
      ここで場合によっては坂の勾配の程度を話します、緩やかだとか少し急な上りであるとかをですね。
      ここではHさんは何回も走っているので、その勾配の程度は語りません。
      そして登勾配がきつくて苦しかったり、長い長い上りであったなら一二度「ハイッ後100メートル」とか「ハイッ 後50メートル」などと語 ります。
      そうする事により苦しさも少しは和らぐかも知れませんからね。

      そして頂上が近づきますと「ハイッ 間もなく頂上」、頂上に達しますと「ハイッ頂上 今度は下っていきまーす」と語りかけます。

      下り坂に入りまして、下り勾配の程度によっては勾配の様子を語る場合があります。
      下り勾配がきつかったりしたら要注意です。必ず急坂であることを警告の意味で語らなければなりませんし、B2選手の場合は伸ばしていたロー プをたぐり寄せる必要も出てきます。

      例えば、小田原マラソンのハーフでは三度ほどもの凄く急な下り勾配の坂がありますので、私はその場所ではB2選手の場合は必ずロープをたぐ り寄せて安全を確保しています。
      そしてもちろん危険ですから飛ばしすぎないように押さえ気味で走ります。

      それから、下り坂では初心者ほど飛ばして降りていきますね(^^;)。
      その点は多少注意を要しますね。

      上り坂への対応する筋肉は鍛えてある方が多いのですが、下り坂に対応した筋肉はほとんどの人が鍛えていません。
      少なくとも平野部にお住まいの方は、その事ははっきりと認識しておいた方が良いと思いますね。
      伴走者も、視覚障害者ランナーが下り坂で飛ばしているような印象がありましたら、抑制する方向で声を掛けた方が良いと思いますね。
      そうしないと、後半で影響が出てしまうかもしれません。

      一寸脇道に逸れてしまいましたが、
      下り坂が終わりに近づきましたら「ハイッ 間もなく 下り終わり」と宣言します。
      続いて、下り坂が終わったら「ハイッ 下り終わり」と宣言、引き続き直線道路の様子を伝えます。
      ここのコースでは、「ハイッ 直線100メートル」と語ります。

      如何でしょうか、ほとんど皆さんの表現と同じでしょうが「山を越える」という表現のみ違ったかもしれませんね。

       

      A-2,下ってから上る “谷” の坂道

      山を越える坂道の解説をさせて頂きましたが、今度はその逆のケースを解説させて頂きます。
      山と逆のケースはどのような坂かと申しますと、最初に坂を下ってから谷底に到達し、今度は上り坂を上っていくコースという事になります。
      そのようなコースを私は“山”とは逆の“谷”と表現します。

      霞ヶ浦マラソンコース上そのような場所が一カ所あります(^o^)。
      20キロ地点を思い起こして見て下さい。ちょうど谷底のような場所にあるんですよ、覚えてらっしゃいますか(^^;)。
      300メートルぐらい下りますかね。そしてちょうど谷底と呼ぶに相応しい所に20キロ地点があって今度は250メートルほど上って行きますね。

      それでは、その場所を一緒に走ってみましょう、結構きついですよ(^o^)。

      下り坂に差しかかる15メートルほど手前で「ハイッ 間もなく谷です 300メートル」と宣言します。
      下り坂が始まる手前で「ハイッ 下ります」と宣言します。

      続けて場合によっては、この下り坂の勾配の程度も併せて表現しますが、ここでは何回も走っているので省略しました。そして下りの長さに応じ て下りの残り何メートルと表現する事もあります。
      そして下りも終わりに近づいた頃、「ハイッ 間もなく 下り終わり」と宣言し、谷底に到達する前に「ハイッ 下り終わり 今度は上っていき ます 250メートル」と宣言します。

      ここ霞ヶ浦マラソンコースでは谷底に20キロ地点がありますので、キロ当たりのラップも語りかけの中に入れます。

      そして登勾配がきつくて苦しかったり、長い長い上りであったなら一二度「ハイッ後100メートル」とか「ハイッ 後50メートル」などと語 ります。
      そうすることにより、苦しさも少しは和らぐかもしれませんからね。

      そして上りが間もなく終了する頃「ハイッ 間もなく 上り終わり」と宣言、上りが終了する直前に「ハイッ 上り終わり」続いて例によって 「ハイッ 直線200メートル」とこのコースでは語ります。

      以上が上り坂の後必ず下り坂がある“山を越える”場合と、下り坂の後必ず上り坂がある“谷”の場合を説明させて頂きました。

       

    • B,上った以降はずっと水平道路が続いている坂道

      今度はもう一つの、上り坂を上りきった以降はずっと水平道路が続いているような坂道の説明をさせて頂きます。
      逆に下り坂を下りきった以降はずっと水平道路が続いている場合も同じですね。
      霞ヶ浦マラソンコースでは、2キロ地点から続く上り坂を思い起こしてみて下さい。
      800メートルほどの長さの上りが続いて、上りきったならずっと水平な道路が続いています。
      このような坂に対しては、私も皆さんもほぼ同じ語りかけだと思いますが、順を追って解説させて頂きます。

      それでは2キロから始まる上り坂を一緒に上ってみましょう。
      長いですけど最後まで一緒に走りますよ。

      上りが始まる15メートルほど手前で「ハイッ 間もなく上り 500メートル以上」(上り坂は500メートル以上続きますが見通せる距離を この段階では表明します)と宣言、上りが始まる少し手前で「ハイッ 上ります 最初は緩やかです」と宣言、そして走りを進めて坂の中間点辺 りに来ますと坂がきつくなってきますので、「ハイッ 坂が きつくなってきました」と表現、そしてさらに進んで上りの終了地点が見えるよう になったら一二度「後100メートル」とか「後50メートル」などと語ります。
      そうする事により苦しさも少しは和らぐかも知れませんからね。

      そして頂上が近づきますと「ハイッ 間もなく頂上」、頂上に達しますと「ハイッ頂上」と宣言し、例によってここでは、ずっと直線が続いてい ますので「ハイッ ずーーと直線」と宣言して走りを進めていきます。

      下り坂以降ずっと水平道路が続いているような場合も、同じような要領で対応します。

      Aの項目では“山”と“谷”の坂道について、B項目では上りきったらずっと水平道路が続いているような坂道について解説させて頂きましたが、 当然の事ながら、初めて参加する大会では先の先がどのような坂になっているかを見極めるのは不可能ですから、次は“山を越えます”などと安易 に語る事は出来ませんね(^^;)。
      把握している範囲で、先の走路の状況を語っていくという事になります。

       

    • C,微かに上っているような緩やかな坂道

      伴走者として走っていて、“アレッこの道は微かに上っているかな”と考え込んでしまうような微かな上り坂もフルマラソンコースともなれ ば結構走る事になりますね。

      そのような、微かな上り坂を視覚障害者ランナーに伝えなかったらどうでしょうか?
      やはり、そのような微かな上り坂も視覚障害者ランナーに伝えないと問題が発生してしまうと思いますね。
      伝えなかった場合に、次のような事態が予想されます。

      微かな上りに入ってきましたら、視覚障害者ランナーは走っていて何か足が重たく感じます(^^;)。
      「走力がアップアップになって来たかな」、「足が重たくなってきたので最後までこのペースを維持出来るかな?」なんて弱気になってしまうかも しれません。
      フルマラソンを走るに際して、ランナーにとりまして最も警戒しなければならない事は“弱気になること”ですので、微かな上り坂である事を知ら ずにそのような弱気に至ってしまっては重大事です。

      ですから、微かな上り坂の場合も必ず視覚障害者ランナーに伝えなければなりません。
      足が重たくなってきたのは微かな上り坂だからですよと知らしめるわけです。
      走力自体が限界に近づいているからではありませんよと(笑)。
      それでは、私が微かな上り坂の場合どのような語りかけをしているか書いていきたいと思います。

      この微かな上り坂の場合の語りですが、予告の宣言を発する必要はないと思います。
      微かな上り坂に入ったら「ハイッ 緩やか~~~に上っています 200メートル」と語ります(笑)。
      もちろん距離は微かな上り坂の距離です。

      その語りの中で伸ばす長さは、その微かな上り坂の緩やかさに比例して緩やかであればあるほど長くします、呼吸は苦しいですが(^^;)。

      そして微かな上り坂が終了したなら「ハイッ 緩やかな上り終わり」と語り、続けて目の前に続く直線道路の長さを伝えます、例えば「ハイッ 直 線300メートル」などと語って走りを先に進めます。

      今度は、微かな上り坂の逆である微かな下り坂について書いてみたいと思います。
      微かな下り坂もその事を伝えておかないと問題が発生するかもしれません。

      微かな下り坂に入って視覚障害者ランナーもなんか足が軽くなってきたと感じました。 「オオ調子が良くなってきた、足が軽くなった」、「いいぞこの調子で飛ばしていけるかもしれない」などと思うかもしれません(^^;)。
      そういう風に思ってしますと後が怖い(笑)。

      微かな下りも終わって平らな走路に入ってしばらく進んだなら現実を知ることとなりますからね(笑)。

      ですから、微かな下り坂も微かな上り坂と同様に伝えなければなりませんね。

       

    • D,坂道に共通する注意事項

      坂道にも霞ヶ浦マラソン大会の2キロ地点からの巨大な長い上り坂とか、クロスカントリー走の時のように急激なアップダウンを繰り返すような 坂道、そして目で見て坂道であるかないか判断しかねるような微かな坂道もあります。

      私達一般ランナーは、その坂道において特段意識することなく坂道の勾配の角度に応じて、自在に前傾姿勢を調整しながら走りを進めているはず です。

      しかし、視覚障害者ランナーはなかなか坂道の勾配の角度に応じて前傾姿勢を速やかに微調整しながら走りを進める事などは容易ではありません。
      私達伴走者も坂道の勾配に対しては、“もの凄く急な坂道です”、“結構きつい坂道です”、“まずまずの坂道です”、“緩やかな坂道です”な どといった表現で語っているのが一般的ではないでしょうか。
      まさか、“6度の勾配の坂を上っていきます”などと語る方はいないと思いますが、如何でしょうか(^^;)。

      私達伴走者は、この坂道での対応を十分に分析しておく必要があります。

      伴走者が語りかけの中で「急な坂道です」などと語ったとしても、視覚障害者ランナーはあくまでイメージの中で一定の角度を予想して坂道を上 り始めます。

      その視覚障害者ランナーの予想した上り坂の勾配と現実の坂とが少し違えば、視覚障害者ランナーが前傾しすぎたり、立ちすぎていていたりして いたという事になり上り坂の勾配に相応しい適正な前傾姿勢を速やかにとる事が出来ません。
      結果として上り坂の最初の頃では、勾配が急であると予想しすぎた場合は前の方にのめり込むようになってしまいますし、勾配が緩やかであると 予想しすぎた場合は、姿勢が立ちすぎていますので上りに入った途端にスピードが落ちてしまう事になります。
      このように、上り坂の最初の頃は視覚障害者ランナーにとりまして予想と当たっていたか外れていたかの違いが出てしまいますので、どうしても フォームが不安定になりがちですし、前傾姿勢などを微調整して合わせようとしますので余分なエネルギーを消耗してしまうことにつながります。

      坂を少し進めば体感する負荷から適正な前傾姿勢を取れるようになりますが、それまでに多少の歩数を走らねばならないというわけです。

      今度は逆に、下り坂について書いてみたいと思います。
      下りでも同じように私達一般ランナーは、その下り坂において特段意識することなく自在に下り坂の勾配の角度に応じて、自在に姿勢を調整しな がら下って行くはずです。

      しかし、視覚障害者ランナーはなかなか下り坂の勾配の角度に応じて姿勢を調整しながら下っていく事は容易ではありません。
      この点も上り坂同様、伴走する立場では十分に知っておく必要があります。
      伴走者が語りかけの中で「急な下り坂です」などと語ったとしても、視覚障害者ランナーはあくまでイメージの中で一定の角度を予想して構えて 下るに過ぎません。
      その視覚障害者ランナーの予想した下り坂の勾配と現実の下り坂とが少し違えば、視覚障害者ランナーが前傾しすぎたり、立ちすぎていていたり していたという事になり下り坂の勾配に相応しい適正な姿勢を速やかにとる事が出来ません。

      結果として下り坂の最初の頃では、下り勾配が急であると予想しすぎた場合は後ろに反るフォームとなってしまいますし、下り勾配が緩やかであ ると予想しすぎた場合は姿勢が前に傾きすぎていますので下り坂に入った途端にスピードが増してしまいます、これは大変に危険なことでもあり ます。

      このように、下り坂の最初の頃は視覚障害者ランナーにとりまして予想と当たっていたか外れていたかの違いが出てしまいますので、どうしても フォームが不安定になりがちですし、姿勢などを微調整して合わせようとしますので余分なエネルギーを消耗してしまうことにつながります。
      さらには下り坂では、転倒の危険性も増幅してしまいます。

      下り坂をある程度下れば体感する負荷から適正な姿勢を取れるようになりますが、それまでに多少の歩数を走らねばならないというわけです。

      どうでしょうか?
      一般ランナーにとりましては、上り坂は苦しい場所で下り坂は楽チンな場所といった程度にしか捉えていませんが、視覚障害者ランナーにとって の上り坂・下り坂への対応は適正なランニング姿勢をとるのに多少の時間を要する場所であると伴走者は認識しなければなりません。

      その意味におきまして、伴走者は坂道に関する語りかけの中で出来る限り坂の勾配の具合も具体的に解りやすく語らなければなりません。
      特に、長い坂道の途中で勾配などが大きく変わる場合は、その変化の度合いをしっかりと伝えなければなりません。
      その点を、忘れないで下さいね(^o^)。

      これら上り坂下り坂への対応が視覚障害者ランナーにとりまして如何に難しいものであるかを知るためには視覚障害者ランナーと一緒にクロスカ ントリー走をしてみると良く判るはずです。
      私達一般ランナーのランニングフォームは目まぐるしく変わるクロスカントリーコースの勾配に特別意識することなく変幻自在に難なく対応して しまいますが、視覚障害者ランナーにとってはコロコロ変わる勾配に悪戦苦闘する事が、見ていて良く解るはずです。
      ですから、私もこの勾配をどのように表現した語りかけを行ったら視覚障害者ランナーがよりスムーズに坂道に対応出来るか今でも思案中です。

      このように視覚障害者ランナーにとりまして思いのほか難しいのが坂道での走りですが、注意点をまとめてみますと、三項目あります。

      坂道での注意点は!!

      a 坂の距離を明らかにする(苦しさが和らぎます)
      b 坂道は適正な立姿勢をとるのに時間がかかる
      c 上り坂・下り坂の始まり(終わり)に注意する

      この三項目に注意して坂道に対応したいですね、それでは個別に解説させて頂きます。

       

    • D-1,坂の距離を明らかにする(苦しさが和らぎます)

      特に上り坂がきつい場合は、上る前に距離と勾配が急である事をしっかりと伝えて視覚障害者ランナーに覚悟を決めさせなければなりません。
      私達一般ランナーでも先の見えない坂道というのは終わりが見えないが故に余計にしんどく感ずるものですよね。
      坂の勾配と終点が見えれば、よし何とか頑張って走るぞと自分に気合いを入れる事が出来ますからね。
      その感覚を視覚障害者ランナーにも伝えてください。

      そして苦しい苦しい上り坂の残りの距離を何度か伝えて苦しみを和らげるように努めなければなりません。
      特にB1の視覚障害者ランナーは全くコースが見えないのですから(^^;)。

       

      D-2,坂道は適正な立姿勢をとるのに時間がかかる

      上記しましたように、一般ランナーは容易く坂道でフォームを微調整していますが、視覚障害者ランナーに取りましては、適正な立姿勢をとるの に多少の歩数を走らなければならないという事が理解出来たと思います。
      その点を十分に留意して坂道に入る時は出来る限り坂の勾配の様子を伝えると共に上りはじめは視覚障害者ランナーは勾配の角度を把握しようと しますので、その動きに注意しながら見守ります。

      いずれの視覚障害者ランナーでも、しばらく進むと勾配の角度を体感して、順応するように適正な前傾姿勢などを取るようになります。
      この順応に要する歩数は、走力や走る経験年数、そして長野県などの坂の多い町に住んでいるのか、東京の千代田区みたいに坂がほとんどない地 域に住んでいるのかなどにより、個人差が大きいと思いますね。

       

      D-3,上り坂・下り坂の始まり(終わり)に注意する

      これはあまりにも緩やかな坂道では気にするに足りませんが、急檄に上り坂・下り坂が始まっている(終わっている)場合は注意を要します。

      例えば下り勾配がかなりきつい下り坂が間もなく終わろうとしていて、平らな部分に入るわけですが、それが急激に平らになっているなどの場合 は視覚障害者ランナーに取りましては大変に危険な状況であり転倒の可能性が高まります。

      このような状況の坂は一般道路でも希に見うけられますが、スロープによく見られる状況かもしれません。

      例えば、小田原マラソンで400メートルトラックのある競技場に出入りするために長さ10メートル程のスロープを思い起こして頂くとお解り になりますが、急激に下り坂が終わって水平面になっていますよね。

      あのように急激に坂が終わっている、或いは始まっている場合は伴走者は特段の注意をしながら誘導しなければならない事はお解りになると思い ます。
      つまずいての転倒の危険性が増しますからね。

      如何だったでしょうか(^^;)。
      以上、坂道に対する対応を書かせて頂きました。

       

  • 6,何メートル手前で予告の声をかけるか

    このレポートを読まれている皆さんもすでにお気づきになっているかもしれませんが、今までの語りかけの中で、予告動作の指示を発する時の距 離ですが、15メートル手前で私は予告の宣言をしています。
    伴走者の中には10メートルではないのと思われる方がいらっしゃるかもしれません。
    この「予告の宣言」を出すタイミングですが、
    例えば、ここではカーブを曲がっていく場合を取り上げますが、5メートル手前ではカーブに近すぎるし20 メートル手前では間が開きすぎる といえるかもしれませんね。
    ですから10メートルとか15メートル程の距離が一般的であるわけですが、どの程度の距離が適正かは走るスピードに大きく依存しているので はないでしょうか。
    ゆっくりランナーの場合には10メートル程度で十分でしょうし、Hさんのようにスピードランナーの場合は15メートル以上は欲しいですね。

    そしてこれが、5キロとか10キロのロード競技の場合ですと、トップランナーのスピードも相当速くなっている場合ありますので20メートル 手前で「予告の宣言」をするのがちょうど良いなどという事もあるかもしれません。

    このように、何メートル手前で予告の語りかけをするかは視覚障害者ランナーの走るスピードにより変化していっこうに構いませんが、一つ重要 な点は、その予告宣言をする為の距離は、例えば10メートルなら10メートルで、スタートからゴールするまで、一貫している事が大切です。
    ある時は7メートルで、ある時は12メートルで予告を発するという事になりますと、視覚障害者ランナーにとっては曲がるタイミングが上手く 合わせられず、やりにくくなってしまうかもしれません。

    そして、「10メートル」などの距離を予告の宣言の中に入れないの?と思われる方がいらっしゃるかもしれませんね。
    目の見えない視覚障害者ランナーにとりましては、10メートルとか15メートルという距離はあまり意味がありませんし、把握も出来ません。
    (ゆっくり走る視覚障害者ランナーの中には歩数でその距離を把握しようとしている方がいらっしゃるかも知れませんが、私はまだ一度も出会っ ていません)

    この距離を表明するという事は伴走者の為といっても良いと思いますね、我々伴走者が予告の宣言を発するタイミングを合わせる為にです。
    あくまで視覚障害者ランナーにとりまして大切な事は、予告の宣言の声を発する時と曲がりの動作が始まる時の宣言の声とのタイミングを均一に する事が大切です。
    そのタイミングがレース中に於いて均一であればあるほど視覚障害者ランナーは曲がるタイミングを計りやすく走りやすいという事になります。

    更にもう一点付け加えるとしますと、一般的には10メートルから20メートルの範囲の中で予告動作の指示を発する事になりますが、もう一段 階前の段で、つまり50メートル手前でも予告動作の指示を出しておくという方法も良いですね。

    私の場合で言えば、50メートル前で一度予告動作の指示を出し、15メートルで再度指示を出すという手順になります。
    レース全体で言えば、かなりの数の発声が増えますので、余裕のある伴走者でないと大変ですし、その方式にした以上は常に50メートル前での 予告を発しなければなりません。

    伴走者にとっては大変ですが、視覚障害者ランナーにとりましては、より安心して変化への対応が出来る可能性が高くなりますので、お勧めの方 法でもあります。

     

  • 7,予告の為の予告とは?

    ここでちょっと脇道にそれまして、何百人といらっしゃる伴走ランナーの中でも、私一人しかやっていないのではないかと思われる事を一つ書い てみたいと思います。
    すでにお気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、私が発する宣言には「ハイッ ○○に曲がっていきます」などのように、「ハイッ」とい う言葉が宣言の前に必ず入っています。

    どうしてそのようにやっているのかと申しますと、非常にユニークな発想に基づいているのですが、
    例えば、最近の電車のアナウンスはこの限りではありませんが、一昔前の電車のアナウンスは概ね次の様な感じでした‥‥‥。
    「次は‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥次は‥‥‥新宿‥‥新宿でございます。お降りの方は○○願います。ドアは右側が開きます」などと語っ ていたものです。

    なぜこのようにアナウンスは間を空けてのんびり語っているかを考えたことがありますでしょうか?。
    多くの方が御存じかもしれませんが、眠っているお客様に対してアナウンスに気付いて欲しいからそのような間を空けた表現になっているんですね。

    私にも経験がありますね、電車の中で気持ちよく寝ていても最初の「次は‥‥‥‥‥」で頭が眠りから覚醒を始めるんですね、だんだんと覚醒し て二回目の「新宿」と語る辺りではしっかりと次は新宿であると認識出来るんですね、これは実に不思議な事ですがね。
    「アッ降りなければ」となって無事に下車出来るわけです(笑)。

    私はこの発想を伴走にも応用したのです。それが有効かどうかは兎も角として(^^;)。

    霞ヶ浦マラソン大会や筑波マラソン大会などのコースを走ってみるとお解りになりますが、かなり長い直線があるんですね。
    自己記録更新を賭けて走りを進めているHさんを伴走している時は、走りの途中で草花が綺麗に咲いていますよとか、晴れて山並みがくっきり見 えますよ、湖が見えてきましたなどと、走りに関係ない事は原則として語りません(^^;)。
    走りに集中する事を第一義として、その妨げになるようなものは出来る限り排除しシンプルな語りかけを目指しています。

    となると、長い直線では相当の時間に於いて何も会話をせずに走りを進めている時も少なくありませんね。
    長い沈黙の後、いきなり「間もなく右に曲がります」などと急に宣言しても視覚障害者ランナーの頭が瞬時に認識出来ないのではないかと思えて なりません。

    そこで“予告の予告”ともいうべき「ハイッ」という言葉を入れる事になりました。
    長い沈黙の中で、最初に発する「ハイッ」で少しでも速く頭が覚醒してくれるのではないかという期待が多分に込められています。

    沈黙が長ければ長いほど、最初に発する「ハイッ」を二度発する場合もありますし、「ハイッ 間もなく 右に曲がります」の言葉はよくみます と「間もなく」と「右に曲がります」は電車のアナウンスのように少し間をおいて語っていますし、時として「間もなく」を二度発する場合もあ りますし、全ては頭を覚醒して間違いなく私が発した指示を聞き取って欲しいとの思いから、状況に応じてきめ細かく対応しています。

    フルマラソンで30キロを過ぎて疲れが見え始めて来たような場合も、頭の中がボーとして思考力が落ちている事も考えられますので、上記と同 じように同じ宣言を二度繰り返したりするなど、確実に伴走者の指示が視覚障害者ランナーの頭に届くように二重三重の安全策を講じています。
    そしてもう少し厳密に解説させて頂くなら、この「ハイッ」は言葉のハイッではありません。

    言葉として「ハイッ」と表現すると意外に吐出する息の量が多く、これを何十回何百回と大会によっては語らなければならないとするとかなりエ ネルギーを消耗してしまいます。
    従って、この「ハイッ」と語る時に息を吐かないようにして厳密に言えば「アイッ」と発声しています。
    (「アイッ」では説明しにくいので「ハイッ」と今まで表現させて頂きました、これ以降も引き続き「ハイッ」と表現させて頂きます)

    これは、もしかすると声ではなく音と言った方が正確かも知れません(^^;)。
    息を吸い続け頂点に達して、こんどは息を吐くわけですが、その吐き始める直前に「アイッ」と表現します。
    このやり方だと息をほとんど吐かないので疲労度も軽微で済みます。
    そして、その割に大きな声(音)が出るんですよ(^o^)。

    このように細々と工夫して、疲労を溜めない程度に出来るだけ多くの言葉を視覚障害者ランナーに語っていきたいというのが願いです。

    私達は視覚障害者ランナーの伴走をやるに際し、コテで塗るようにたくさんの言葉を発して注意を喚起し、その結果として視覚障害者ランナーに 安心して走って頂きたいとの 思いは強いですが、言葉を吐くというのは意外とエネルギーを消耗してしまいますね。
    伴走者ならその事は良く理解していらっしゃるものと思います。
    ここに非常にジレンマがありますね(^^;)、トップレベルの選手を伴走すればそのジレンマはより強いものになっていきます。伴走者がアップアッ プの中を走らざるを得ない 場面も体調によっては多くなってまいります、私はそのような状況でいつも伴走をして いました。
    視覚障害者ランナーが絶好調で、伴走者は絶不調などというパターンも時としてありますからね、そのような時は辛いですね(^^;)。
    私は、いつもこのパターンかな(^^;)。

    ですから私達伴走者は、視覚障害者ランナーに安全にそして安心して走ってもらうようにすると共に、ゴールするまでしっかりと伴走出来るエネル ギーを温存・維持しつつ誘 導指示の言葉をより多く発していくように努めるという形に収斂していくのではないで しょうか。

     

  • 8,1キロ毎のタイムの伝え方

    次は1キロ毎のラップタイムなどを伝える対応を書いてみたいと思います。

    霞ヶ浦マラソン大会は嬉しい事に1キロ毎の表示がありますね。
    1キロ毎のペースをしっかり管理していけば、後半の走りで大幅にペースダウンするような潰れは避けられる可能性も高くなってきます。
    ですから、通過タイムを視覚障害者ランナーにキッチリ伝える事は、伴走者にとりまして重要な伝達事項の一つです。

    ここでの伴走者の語りかけというのは、そうは違ってないと思いますが私のやり方をを解説させて頂きます。
    通常は、視覚障害者ランナーは伴走者の動作指示の語りかけに対応して動いていくわけですが、このキロ表示に対する語りかけに対し、視覚障害者 ランナーは連動する動作を必要としません。
    聞くだけで用事が済んでしまうわけです。

    伴走者の語りかけに対して視覚障害者ランナーの連動する動作が必要ない場合に限って、私は「ハイッ 次は 3キロ地点」などのように「次は」 という表現を使用しています。

    そんな細かい指示用語まで気がつかないという視覚障害者ランナーもいらっしゃるかも知れませんが、このような細かい表現も長くペアを組んでい ますと視覚障害者ランナーはしっかりと分別出来るんですね(^o^)。

    「次は」とくれば視覚障害者ランナーは対応する動作は必要ないと反射的に感ずる事もあるようですよ、芸術的といえる細やかな伴走ですね(笑)。
    視覚障害者ランナーにとりましても少しだけ精神的に楽チンですよね。
    それでは、キロ表示部分を通過してみましょう、霞ヶ浦マラソン大会のキロ表示掲示板は比較的見つけやすい表示ですね。
    キロ表示の手前15メートル程で「ハイッ 次は 5キロ地点」と宣言します。
    キロ表示のラインを通過する瞬間に私は「ハイッ」といつもより大きめな声を上げます。

    視覚障害者ランナーに計測しましたよと知らせるわけです。
    そして続けて「5キロ通過 4分21秒 5キロ 21分47秒」などとラップと必要に応じてスプリットタイムも伝えていきます。
    続いて、そのタイムに基づいて速くするか遅くするかなどのペース調整の話を二言三言会話して次の1キロの予定ペースを設定し走りを微調整しな がら進めます。

    予定通り順調にペースを刻んでいる場合などでは、ペース設定の打ち合わせをしない場合もあります。
    お互いに“問題ない、今のペースでOK”と認識しているわけです。

    それから、20キロ地点とか30キロ地点などにチップでの計測の為にマットが設置されている場合も珍しくありません。
    もちろんスタートやゴール地点に設置されている場合もあります。

    このマットも厚みは約2センチありますのでタイミングが悪ければつまづく恐れも十分ありますね。

    それでは、マットが設置されているキロ表示ポイントを通過する場合の私の語りかけを書いてみたいと思います。

    キロ表示の手前15メートル程で「ハイッ 次は 10キロ地点 マット注意」と宣言します。
    そしてマットを通過する少し前で「ハイッ 足下注意」と語り、そしてキロ表示のラインを通過する瞬間に私は「ハイッ」といつもより大きめな声 を上げます。

    視覚障害者ランナーに計測しましたよと知らしめるわけです。
    そして続けて「5キロ通過 4分21秒 5キロ 21分47秒」などとラップと必要に応じてスプリットタイムも伝えていきます。

    マットが設置されているキロ表示ポイントを通過する場合はこのように語ります。
    ここではマットを通過しましたよという終了宣言は必要ありません。
    視覚障害者ランナーもマット部分はほんの4メートル程度走れば通過しているという事は十分解っていますからね。
    それに足裏の感触で走り去った事をちゃんと把握しているかもしれません。

    ところで、キロ表示を見落としてしまう事結構ありませんか?
    そのような事も珍しくありませんね、少なくとも私は(^^;)

    そんな時にはどのように対応するかと申しますと、今まで二度続けて見落としたことはありませんが、一度見落とした場合は2キロ分のラップタ イムを足して二で割ると2キロ分の平均値が出ますので、そのタイムを伝えることにしています。
    その場合の語り方は「ハイッ ○キロ地点 2キロ平均が ○分○秒」などと語ると良いと思いますね。

    それとキロ毎のラップタイムに関連して、皆さんはどのようなラップタイム表を準備しておられるでしょうか?

    視覚障害者ランナーがキロ4分00秒で走るなどとなればちょうどきりの良いラップタイムやスプリットタイムが並びますから、特別に紙に書い て持つなどの必要はないでしょうが、
    スタート前に、キロ4分8秒で走りたいなんて言ってきたら困ってしまいますね(笑)。

    そんなに困ることではありませんが、何らかの形でスプリットタイムをリストアップして携帯していないととても覚えられるものではありませんね。

    私も昔は紙に書いて携帯しました、パンツのところに入れておいて(^^;)、必要に応じて取り出してチェックしました。
    しかしパンツが汗で濡れてくるのに従って読みにくくなったりします(^^;)。
    次に考え出されたのが、ラップタイム表を文房具店でやってくれますが“パウチ”してもらって汗に濡れても全く問題ないようにしました。
    しかし、これもカードみたいなものですから擦れて痛いですね(笑)。

    そして最終的には今のやり方に落ち着いています。

    マジックインキで腕にラップタイム・スプリットタイムなどを5キロ単位で書いていくんです。
    予想されるラップタイム、プラス5秒とマイナス5秒の三種類をですね。
    スプリットタイムを入れ墨のように書いていきます(笑)。

    数字が小さいと視認に時間がかかりますので出来るだけ大きく書いています。

    皆さんはどのようにスプリットタイム表を携帯してますでしょうかね。
    エッ 暗記している(^o^)、それは素晴らしいことですね。

    ちょっと脇道に逸れてしまいました(^^;)。

    ベースに対する打ち合わせが終わりましたら、直ちに次の項目に書かれていますライバルの動向について語ります(^o^)。

     

  • 9,ライバルの走りを戦略的に伝える方法

    Hさんもこの大会に於いてマークすべきライバルが数人いますが、それら選手の動向を伝えるのも伴走者の重要な仕事です。
    ライバルとの前後関係や状況が大きく動いたときには速やかにHさんに伝えることになりますが、長いフルマラソンの道中ではそんなに劇的に変 化しない場合も多いですね。

    そんな事もありまして、“定期的に把握する”或いは“1キロ毎の範囲でどれくらいライバルとの距離が開いたか縮まったかを比べる為”に相対 的に比較しやすい1キロ毎のラップタイムを表明した後に続けてライバルとの位置関係を表明していきます。

    どうでしょうか、良いアイデアでしょう(^o^)。
    1キロ単位でライバルがどのように動いているか手に取るように解りますよ(^o^)。
    ライバルが落ちて来つつあるか、それとも離されつつあるのかですね。

    どの様に語るかですって?
    そんな戦略的な機密情報をここで語るわけにはいきません(笑)。
    永遠にノーコメントです(笑)、ご免なさいね。

    でも、どうしても知りたいと言う方は来年の霞ヶ浦マラソン大会に参加して私達の後を走ったら解るかも(笑)。

     

  • 10,給水・給食の取り方

    霞ヶ浦マラソン大会も12キロを過ぎて来ますといよいよといいますかやっとといいますか、最初の給水ポイントが表れてまいりますね。
    (4月のフルマラソン大会ですので、10キロ地点より前にも給水があると助かるな~と感ずる方は多いかも知れませんね)

    暑い時期に開催される、かすみがうらマラソンや北海道マラソンなどでは、ほぼ例外なく最初の給水から、一口でも良いから積極的に給水を取る ようにするのは脱水を起こさないためにも必要ですが、寒い時期は全て給水を取る必要のない事もあります。

    寒い時期のマラソン大会などのように、給水を取る時と取らない時が混ざる可能性のある場合は、事前に伴走者が「取る/取らない?」の質問を 発して、視覚障害者ランナーがどちらかを選択して答えるという方法もあります。

    例えば、一般的には50メートル位手前で、「ハイッ 50メートル先 給水(給食)」と宣言します。
    そこの所を、「ハイッ 50メートル先 給水(給食) 取りますか?」と伴走者が問いかけます。
    そして、給水が欲しい場合は「ハイ」などと答えます。不要であれば「パス」と伝えたりします。

    そのようにして、不要であれば給水は取らないという形で走りを進めればロスタイムもより少なくする事が出来ますね。

    それでは、大切な給水・給食の取り方の流れを書いてみたいと思います。

    前に書いた事でもありますが、二人が一定のペースで走っていてペースダウンせざるを得ない場所が直角にカーブしている曲がりと、この給水・ 給食ポイントであると書きました。
    ですからここでは次の事柄に注意します。

    A,確実に給水・給食を手渡す
    B,出来る限りペースを落とさないように通過する

    この二つに気をつけて対応したいですね、それでは各項目を説明させて頂きます。

     

    • A,確実に給水・給食を手渡す

      これを実現する為に、まず注意する事は霞ヶ浦マラソン大会のように、一度にたくさんのテーブルが準備されている場合は、最初のテーブルから は取らないというのが良いのではないでしょうか。
      暑くなればなるほどに、どのランナーも早く手に入れたいから最初のテーブルに殺到しますね、ですからテーブルの数を遠くからよく見て一歩先 へ回るというのがベターです。

      そして他の選手の動きを見ながら目標のテーブルに向かい、速やかに近寄りサッとコップを持ち上げ上部の口を押さえてほぼ閉じてしまいます。 そして水であるとかスポーツドリンクだとかを伝えながら、コップを渡す動作に入ります。

      視覚障害者ランナーには、手を胸の前当たりに開いた状態にしておいてもらいます。
      そこへ伴走者がコップを入れて、視覚障害者ランナーはコップが入ったと感知したら手のひらを閉じてコップをつかみます。

      給水コップは口を少し潰した形状で呑むようにすると、ゲホッゲホッとむせる事も少なくなると思います。

      又、希にではありますがHさんの場合、給水・給食ポイントを通過する時にロープを離して私だけサッと給水を取りに行く場合があります。
      Hさんは直進しているのでエネルギーロスもありませんし、スピードも少しだけのダウンで済ませられます。
      給水・給食ポイントが混み合っていない場合で安全が確保され、直線道路での給水所である場合ですからそう何回もある事ではありませんが。
      この方式で給水などを取る場合の語りかけの言葉などは視覚障害者ランナーと十分に事前に話し合って決めておきます。
      それでは、そこまでの流れをどのように語っているかと申しますと、

      50メートル位手前で、「ハイッ 50メートル先 給水(給食)」と宣言します。

      そして給水所までの距離が15メートル程に近づいて参りましたら、「ハイッ 間もなく 給水(給食)」と宣言し、ここでは最初の打ち合わせ 通りにまず水を取りにいく準備をします。
      この時にスポーツドリンクが欲しいと本人が思えば、「スポーツドリンクを取って下さい」と表明する事になりますので、その場合はスポーツド リンクを取る事になりますね。

      そして水の近くに来ましたら「ハイッ 取りに行きます」と語り水を取りに行きます。
      給食の場合は希望する品を取りに行きます。

      視覚障害者ランナーの手は、胸の前当たりに開いた状態で待機してもらってありますので、そこへ「ハイッ 水」と言いながら入れます。
      視覚障害者ランナーはコップが入ったと感知したら手のひらを閉じてコップをつかみます。

      そしてお互いに水を飲んだりするわけですね、霞ヶ浦マラソン大会ではとにかく暑い中レースが展開しますので給水が欲しいと思わない時でも一 口でも良いから給水を取りながら走りを進めた方が後半のためにも安全だと思います。

      そして、私は出来る限り多くの給水を取るように努めますので、たまに水が余ったりする事があります。
      その場合は、捨てるのは勿体ないので次のような使い方をします(^o^)。

      私がHさんに向かって「Hさん 頭」と宣言します(笑)。
      そしてHさんの頭にその残った水をバサッとかけるわけです。
      少しはHさんの頭も冷えて気持ち良いでしょ(^o^)。効果があるかどうかは解りませんが、気持ちがよいことは間違いないのでこれはよく やりますね。

      タイミングが遅れて頭にかけるのが不味いような状況になりましたら胸の当たりにかける場合もあります。
      いきなり断りもなく顔などにかけたら鼻から入ってしまうかもしれないし、目に入ってしまうかもしれませんので、いきなりかけないように注意 しています。

       

    • B,出来る限りペースを落とさないように通過する

      この事については、あくまでも安全との兼ね合いですから、ペースを落とさないようにするのが第一義ではありません。安全を確保した上でペー スを落とさないように努めるという順序です。

      特にB1選手の場合は、全く周囲は見えないわけですし、伴走者だって目は2個しかないので360度周囲に気を配る事も不可能です(^^;)。
      給水所は危険がいっぱいと考えて対応した方が無難です。

      一般選手もこの時ばかりは、水を取る事に集中して他の選手の動きには無関心になりがちですからね。
      ですから安全第一で対応する事は申すまでもありませんね。

      ただ前の項目でも書きましたが、カーブを曲がる時とこの給水・給食でのペースダウンは出来る限り避けなければなりません。
      事前に視覚障害者ランナーと給水・給食時にどのような動きで対応するか事前に十分打ち合わせをしておき無駄のない動きで、速やかに移動しな がらテキパキと処理をして進みます。

      給水・給食を手際よく対応していけば、それだけでフルマラソンでは10秒ぐらいは簡単に短縮出来るのではないでしょうか。

      又、嬉しい事に最近の傾向として、一般参加の選手が視覚障害者ランナーが十分に給水を取れなかった事などをよく見ていて、「水をどうぞ」な んて声をかけて下さる事が多くなったなと感じています。
      実際私などでも時として、コップの水を半分以上こぼしながら取ってしまったり、或いは自分の分が取れなかったなどという事が何度かあります ので、そのような時にそのような声をかけてくれると本当に嬉しいですね。

      嬉しいと言えば、ここ霞ヶ浦マラソン大会では視覚障害者ランナーが大勢走っている事を一般ランナーはよく知っていて私達が並んで走りを進め ている時に、後ろから視覚障害者ランナーの私達が迫ってきたと感知するやサッと横に避けてくれる一般ランナーが本当に多いです(^o^)。
      この事は視覚障害者ランナーにとりましても伴走者にとりましても本当に嬉しい事ですね。
      Hさんのように、全コースに渡って一般ランナーを着実に抜いていく選手の場合は本当に助かります。

      中には「アッ ご免なさい」などと言葉を発して譲ってくれるランナーもいらっしゃるんですよ。

      このように気を遣って頂くと本当に嬉しくなってしまいます。
      ですから、私達も前を走る一般ランナーを抜いていくときも出来る限りじゃましないように走りを進めますが、どうしても前を走る選手に横に移 動してもらわない事には走りを進められないといった場合は「すいません」とか「申し訳ありません」などの言葉を必ず先に入れて「少し横にず れて頂けますでしょうか」などと言葉を紳士的に(^o^)語るようにしていますし、動作が完了した後「すいませんでした」とか「有り難う御座いま した」などの言葉を出来る限り語るようにしています。
      この時ばかりは、言葉を短くしようとかの気持ちはあまりありません(笑)。

       

  • 11,ランニングハイに気をつけましょう

    さあレースは14キロ地点も通過して、何だか体も一段と軽くなってきました。
    この辺りでは体も十分すぎるほど温まっていますし、リズムもしっかりと出来上がり心地よいリズムとなり、軽快な走りになっているのが一般的 ですね。

    この近辺で注意しなければならない点は、ただ一つ“ランニングハイに気をつけましょう”ですね。
    私もHさんに対してベースダウンの必要性を語るのは二三度だと前に書きましたが、スタート直後と、もう一度は大体このランニングハイにより ペースが上がってくる10キロから15キロあたり、選手によっては20キロ近くまで続くかも知れませんが、Hさんも13キロから14キロま でのラップが4分06秒と少し上がってしまいました。

    私は14キロ地点のラップを語った後「気持ち落としましょうか?」と提案しました。
    Hさんも、「そうですね、少し落としましょう」と語り、話し合いは一発で成立(^o^)。

    皆さんも気をつけて下さいね。ランニングハイの時に飛ばすと最後はボロボロになってゴールする事になりますよ(^^;)。

     

  • 12,中間点で伴走を交代する場合のロープの渡し方

    Hさんも順調に走りを進めてまいりましてちょっと苦しい20キロ地点の“谷”の坂も無事に上り終えて平坦な所に走りを進めてまいりまして、 まもなくお城も見えようかという地点まで進んでまいりました(^o^)。
    スタートするに際しては書きませんでしたが、まもなく通過する中間点で、私の伴走は終わりとなります(^^;)。
    続いて後半はKさんという方が伴走する手はずとなっています。
    スタート前に奥さんと中間点に車で向かいました。

    私は何年か前までは、ここ霞ヶ浦マラソン大会に於いてHさんの伴走で42キロ全部走っていましたが、ある年に私が先に潰れる事態になってし まった時がありました。
    それ以来、安全策をとりまして前半のみの伴走を担当するという形でここ何年か推移しています。
    フルマラソンでは一人の伴走者が全てのコースを走るのが理想です。
    このような中継ぎがなく一人で全部伴走すれば、視覚障害者ランナーにとりましても、中継点からの微妙な伴走のやり方の変化やピッチの変化、 レースぺースの微妙な変化などのストレスが発生する事なく走れるわけですからね。
    しかし、私の走力が至らないので交代はやむを得ません(^^;)。

    後半を担当するKさんも、素晴らしいボランティア精神の持ち主で、私よりも年下ではありますが、心より尊敬している方でもあります。
    既にHさんとペアを組んでいる期間も長く、そのHさんの伴走も優れた対応をしてくれるので、安心して任せられるとHさんが私に話してくれた 事がありました。

    視覚障害者ランナーのHさんと、私とKさんの三人による体制も作り上げてから概に数年になろうとしています。万全な体制ですし素晴らしい組 み合わせでもあります(^^;)。

    お城の前のカーブも曲がり終え、道幅の広い直線道路に入ってきました。
    遠くに見える待機ランナーの中にKさんらしき人が大きく手を振っています(^o^)。
    居た!!
    見つけた瞬間は嬉しいですよ。これで安心してロープを渡せる。
    逆に居なかったら大変なことになりますからね。
    中間点まで、後100メートル‥‥‥後50メートル!
    ここからは、私達がどの様にロープを渡して伴走を引き継ぐかを書いてみたいと思います、よーく見ていてくださいね(^o^)。

    中間点100メートル手前で「ハイッ 中間点が見えてきました 100メートル」と宣言します。

    そして、中間点手前15メートルほどで、私は「ハイッ 次は 中間点」と宣言します。

    中間点通過!!。
    通過する瞬間に私は「ハイッ」といつもより大きめな声を上げます。視覚障害者ランナーに中間点を計測しましたよと知らせるわけです。

    「1時間26分32秒」と大きな声で叫びました。
    このタイムに対して速いか遅いか、過去のレースと比較してどうかなどをチェックして、これから後半をどのように走るかを二言三言Hさんと話 し合います。そして結論は出ました。
    現状のペースで走りを進め、例年よりも中間点では体が軽い印象があるとの事なので、30キロ過ぎて余裕があればペースアップを狙うという結 論になりました。

    交代するKさんは、中間点から私達の後ろを走り始めています。

    この話し合いが終わったら、私の腕にはめていたストップォッチをはずしてKさんに渡して装着してもらいます。
    そしてKさんも難なくストップォッチを装着し終えました。
    そうなんです、そのストップォッチはKさんのものなんです、だから扱いは容易ですね。

    タイム的な誤差が発生しないように時計は一個で全部走ります。

    伴走を引き継ぐKさんは中間点からすでに私達の後ろを一緒に走っていますが、この段階ではまだ伴走の引き継ぎは何もしません。

    100メートル以上はそのまま3人が三角形の形で走り続けます、その理由はKさんにHさんのレースペースに馴染んで貰う事により、伴走者の 交代によるストレスを少しでも軽減する為です。
    引き継ぐ為の併走する距離は出来るだけ長い方が同じペースを形成しやすい事は間違いのないところです。
    その併走する距離は、出来れば300メートル以上は欲しいところですが、ここ霞ヶ浦マラソン大会では間もなく下り坂に入ってしまうので少し 短めです。

    中間点も150メートル以上走り去って、Kさんも私達のペースに馴染んできました。
    いよいよKさんにロープを持ってもらう段階に入りました。
    Kさんは私達二人の後ろにいますので、合図と共にスッと後ろから前に出てきてもらいます。私は外側に外れるような形ではずれていきKさんに 無事にロープを持ってもらうようにします。

    「ハイッ 交代します Kさんお願いしまーす」と宣言してKさんが後ろから前へ割り込んできました。
    そして無事にKさんはロープを手にして一緒に走り始めました。
    B2選手の場合は、ロープを長くしてつながっていますので、引き継ぎ動作はあまり神経質になる必要はありません。
    ロープを短くつないでいるB1選手の場合は、出来るだけ速やかにチェンジする事がポイントですね、そしてなるべく早く通常の腕振りを開始し ます。

    この中間点で伴走者の交代をする場合の注意点は一部繰り返しになりますが、
    交代地点に来たら直ちにロープを渡すのではなく、しばらく一緒に走り(出来れば300メートル以上)現在の視覚障害者ランナーのペースに馴 染んでもらうように努めます。
    特にB1選手の場合はピッチも一緒に合わせるようにして走りを進めます。

    そして馴染んできたと思われるほどに進みましたら出来るだけ速やかにロープを引き継ぎます。
    つまりはスピードの変化を伴走者が作り出さないようにして交代する事が最も大切な事です。
    そうでないと視覚障害者ランナーに思いがけないストレスを与えてしまう事になりますからね。

    Kさんがロープを引き継いだ以降は、今度は私が二人の後ろについて走る番です。
    Hさんに語る必要がある言葉を二言三言語ります。
    私は後半の走りを鼓舞する為の言葉を並べる事が多いですね(^o^)。
    少しでも強い闘争心を維持しながら後半も戦ってほしいと願って。

    今回のレースでは「Hさん、貯金は3分半あるからね 絶対にサブスリーは実現出来ますよ 頑張ってくださいね」と叫んでいました(笑)。

     

伴走を交替し離脱していきます

下り坂も順調に進み、競技場から最も遠いちょっと危なっかしい複雑なカーブも無事に曲がり終え、直線道路に入ってきました。

さあ完全に道のりは帰り道に入りました、気持ちを切り替えて走りを進めてもらいたい所です。
思ったほど風もなく、風によるペースダウンも最小限に抑えられそうですし、太陽もどちらかというと雲に隠れ気味で暑さも予想された範囲に収まっ ていて暑さに強いHさんにとってはそんなに苦痛に感ずるほどの暑さではありません。
汗のかき方も、いつも通りといった感じでひどく汗をかいているといった状況ではありません。
呼吸も今のところ全く問題はなく、顔の表情は余裕も感じられ程です。

視界の中に給水地点が見えてまいりました。
私は少し前に出て給水を取りにかかりました、片手で一つのコップをつかみ、前に走りを進めます。

Kさんも無事にコップを取り上げ、Hさんに渡しています。
しばらく進んでから、私の持っている一つのコップはKさんに飲みますかと勧めましたが要らないとの事なので、Hさんに近づき「Hさん 頭 頭」 と叫び頭にバシャとかけました(笑)。
そして再び二人の後ろに回り、二人の背中を両手で叩いて「頑張ってくださいよ」と叫びました。
Kさんは左手をサッと上げて「任しといて」という感じで反応してくれました(^o^)。

それらの動きを見届けながら、私は徐々にペースを落とし離脱していきました。

「今日走力的に余裕があった事もあり伴走はかなりの出来ばえだった」「ちょっとまずい伴走をした部分が2ヶ所あった」などとレースを振り返り、 緊張感の余韻を楽しむようにゆっくりペースで前進を続けます‥‥‥‥。

 

皆さん如何でしたでしょうか?
マラソン大会の朝、視覚障害者ランナーと合流する時から解説を始めまして、スタートそして途中の要所や難所を乗り越えて中間点までを霞ヶ浦マ ラソン大会を実際に体験するようなイメージで伴走ノウハウの解説を一気に進めてまいりました。
皆さんの伴走と比較してロープさばきや語り方で違っている部分がどれくらいあったでしょうか?
ユニークな伴走で吹き出してしまうような部分もあったでしょうね(笑)。
又、読んで下さった方の中には改めて伴走の細やかさや心配りに驚いた方もいらっしゃるかもしれません(^^;)。

よく十人十色などといわれますが、こと伴走に関しても十人いれば十人のやり方があるといっても過言ではありませんので、このように他の人の伴 走のやり方を知る事は決して無駄なことではありませんね。

文中に活用して頂けるような伴走ノウハウが含まれているとしたら、それは大変に嬉しい事でもあります。

 

フルマラソン後半の注意点

さてさてと、ここまで伴走のノウハウを一気に書き進めてまいりました。
レース後半からゴールするまでの展開で注意すべき点をほんの少し追加させて頂きます。

後半の伴走の注意点は本来はKさんに聞いてみるのが良いかもしれませんが(^^;)、少しだけ書かせて頂きますと、三項目あります。

 

  • 1,足が上がらなくなるので、細かい段差に注意する

    強いて言えば、後半の走りは疲れてきますので視覚障害者ランナーの足も本人が思うほど上がらなくなってきます。
    従って前半では伝えなくとも良いと判断した小さな段差も、必要に応じてより緻密に伝えなければならないとお考え下さい。
    ウルトラマラソンなどでは、本当に疲れて足が上がらなくなり、僅かな段差で転倒してしまうそうですね、フルマラソンではそこまで上がらなく なる事はないでしょうが注意してくださいね。

     

  • 2,動作指示の言葉が確実に伝わるようにする

    そして前にも書きましたが、後半は互いに頭が疲労でボーとしてきます。
    語る言葉も、予告の言葉をより多く語り聞き逃したなどの事態が発生しないように努めないと思いがけない所で転倒などに結びついてしまいます ので注意します。

    特にゴールが近くなりますと、応援の方々が大きな声で励ましてくれたりで、語りの言葉も声援に遮られて聞き取りにくい事も考えられますので、 その点も十分に注意します。

     

  • 3,ペースダウンに気付かない場合がある事に注意する

    フルマラソンの走りも、後数キロという段階に入ってまいりますと、疲れのピークも極限に達するようにもなります。
    そんなアップアップの段階での走りは、視覚障害者ランナーも気付かないうちに、ペースが落ちているなどという事も多くあります。
    本人は、引き続きイーブンで走っていると感じている場合も多いですので、伴走者はしっかりとペース管理をして、落ちてきている場合は、確実 にペースダウンしている旨伝える必要があります。

     

  • 4,ゴール後走りが止まるまで十分に注意する

    これは本当に注意しなければなりません!
    結構多いんですよ、ゴールラインを越えてから転倒したりぶつかったりするのが(^^;)。

    一般ランナーの中にはラスト50メートルだけ異常な早さで駆け込むランナーもいますし、ゴールした途端に一歩も歩けないとばかりに膝に手を 当てて停止してしまうランナ ーも多いですし、中にはフラフラしてしまうランナーもいます。
    ゴール後はいろんな姿を見せてくれます、見ていて楽しいですね(笑)。

    一方、視覚障害者ランナーも誘導指示の不徹底でゴールラインが判らず、ゴールラインを超えても走ろうとしている視覚障害者ランナーを見かけ ます。
    もちろんこれはゴール前の大きな声援にゴール合図がかき消された為に聞こえなかったという事も大いにありえますので、より大きい声でゴール を宣言しなければなりません。

    ゴールの合図はレース中にたった一度使うだけですので、どうしても話題に上りにくいですし軽視しがちですが、しっかりとゴール時の合図の方 法を打ち合わせする事をお勧めいたします。

    伴走者もゴールした瞬間から、もう仕事は終わったと言わんばかりに気を抜いてしまう事もあります(^^;)、私だけかも知れませんが(笑)。

    そして、ゴール後も赤いコーンなどがズラッと設置されていて、道幅が狭かったりして視覚障害者ランナーの足にぶつかってしまう事も珍しくあ りません。

    以上のような状況が重なり、ゴール後の転倒事故などが本当に多いです。

    伴走者としては、ゴールした瞬間にゴールした旨しっかりと表明して、しっかりと視覚障害者ランナーを後ろから抱きかかえ、前と横に動かない ように束縛して速やかに減速そして停止しなければなりません。
    男女のペアの場合はちょっとやりにくいですけどね(^^;)。

    後半からゴールまでは、この四項目に注意しながら対応していけば万全ですね。

    それから、更に付け加えるとすれば、ゴールした後にクーリングダウンをしないランナーが本当に多いですね。
    激しい走りをした後や、アップダウンの激しいコースなどを走った後は、かなり足腰に負担がかかり疲労も貯まっています。

    戦い抜いた身体を労ってやるために、そして故障を未然に防ぐ意味でも、ぜひゴールした後すぐに座り込んで安心してしまうのではなく、伴走者 と共にゆっくりペースで構いませんので10分から20分ジョグをする事をお勧めしたいですね。

    そうする事により、筋肉疲労もより早く回復に向かうことでしょうし、何よりもそのジョグの時に二人で、今日のレースを振り返って反省するこ となどを話し合えれば素晴らしいですね。
    「今日はこういう点がまずかった」とか、「あそこのカーブは危なかったね」などと振り返り次のレースに生かせることがあれば、回を重ねる毎 に素晴らしい走り、そして伴走が出来るようになる事でしょう。

     

    それでは、ゴールに向かって順調に走りを進めているHさんのゴールはどうなったんでしょうかね?。
    サブスリーの目標は達成出来たのでしょうか?

    結果は、日本盲人マラソン協会発行の会報「絆」をご覧になって頂くと解ります(笑)。

     

 

第三章 伴走のこれからの課題

伴走に対する問題提起・ルールの確立について三題

話は大きく大きく飛躍しますが(^^;)、
例えば、世の中の出来事などで、○○県の○○川の上流にダムを建設するプランを県の土木工事担当部署が発表しました(長野県ではないです よ(^^;))。
早晩、建設に向けて動き出すに際し住民を巻き込んだ賛成派と反対派の対立で大変な騒ぎになるのが一般的ですね(笑)。

翻って私達が取り組んでいる視覚障害者ランナーの伴走につきましても、ある要件について「それは賛成だ、私もその様にやっている」とか、 「いやその考え方は反対だ」などと意見が割れる事もありますね。

ここでは、その様な皆さんの意見が割れると思われる課題や伴走ルールの取り決めの必要性などについて書いてみたいと思います、三題あります。

 

  • 1,視覚障害者ランナーの走りをどこまで管理するか

    最も意見が割れると思われる課題を最初に持ってきましたね(^^;)。

    視覚障害者ランナーも競争しているのですから、ビッグな大会であればあるほど勝たねばならない事への要請は強いものになるでしょう。

    実業団選手などには、当然ながら長く苦楽を共にして勝利を目指して歩んできた監督が存在する事がほとんどですよね。
    監督と選手が力を合わせて、目標を設定し日々努力を重ねて走力のアップを目指して練習に励んでいるわけですが、そんな共に歩んできた二人であっ ても大会にて選手がスタートしてしまえば、後は選手の判断で走りを進める以外に方法はありません。
    監督はといえば選手が走り続けている最中に交通機関を乗り継ぎ要所要所で選手に僅かばかりの指示を出す程度になってしまいますね。

    ところが、視覚障害者ランナーと伴走者とは、ある意味で視覚障害者ランナーに監督が最後まで付れ添って一々管理しているようなものではないで しょうか。

    二人は長くトレーニングを重ねてきた関係である事も多いわけですので、伴走者は視覚障害者ランナーの息づかいの変化で容易に今の余力などを見 極め残りの距離に対するペース配分などをアドバイスする事が可能となりますので、共に走ってより上位の成績やタイムを目指すのはいっこうに構 いませんが、それらが高じてさらに伴走者が監督同然となって多大に視覚障害者ランナーの全般に関与してくるという事になりますと、ちょっと問 題があるかも知れませんね(^^;)。

    例えば、私はHさんに対して1キロ毎のラップなどを参考に、ペース変更の提案はレース中にせいぜい二三回程度ですよと書きましたが、Hさんが フルマラソンなどでのラップはきれいな安定したタイムが並ぶからこそ語る必要がないという事もありますが、あまり深くペースの変更には関与し ないという方針により敢えて言わない事も多いのです。

    タイムを上げましょうと言ってもアップアップで上がらない場合もあるでしょうし、タイムを下げましょうといっても自動車ではないので、一度上 がったペースは簡単には下がりません(笑)。
    それらを指示するよりも例えばライバルの動向をより精緻に伝えたりといった視覚障害者ランナーの精神を鼓舞する方向で対応するように努めてい ます。

    それから、走っている途中で視覚障害者ランナーに向かって伴走者が、「頑張って」、「頑張りましょう」とか「ここは苦しいけれどまだまだ行け ますよ」、「苦しいけどここでついて行かないと離れてしまいますよ」などと大きな声で繰り返し励ましている姿を見る事がありますが、指示され るのが大嫌いな私が視覚障害者ランナーだったら、あまりに激励の言葉が多い時は「そんなに頑張りたいのなら、ロープを離して一人で先に行って ください」と言ってしまうかもしれません(笑)。

    それから、視覚障害者ランナーをいわゆる“乗せて”走らせようとする伴走者もたまに見かけますね。
    「すごく調子がよいですよ」とか「リズムがよいですよ」、「足が軽い感じがしますよ」、「今までで一番よい走りですよ」などなど‥‥(^^;)。
    このやり方も、何か手の平の上で踊っている孫悟空のような気分になってしまうかな‥‥踊らされているような(^^;)。

    私も励ましの言葉はたまにかけますがフルマラソンであれば二三回程度ですかね(^^;)。
    例えば残り1キロ地点とか3キロ地点などで、「ラスト1キロ、今が一番苦しいですが頑張っていきましょう」といった発言をする場合があります。
    この程度の励ましを二三度ほど語ります。
    大会では、私は基本的に励ますとか檄を飛ばすなどというのはやらないようにしていますので、上記以外の言葉はほとんど発した事はないような気 がします。

    但し、練習の時は別です、私は(笑)。
    練習の時に於いては、ビッグなレースの前の重要な練習などの時に、かなり檄を飛ばす事になります。
    小心者なら泣き出してしまうかも知れません(^^;)。
    重要なポイント練習では、かなり気合いをいれて視覚障害者ランナーをけしかけます。
    全ての練習という事ではありません。あくまで重要なポイント練習の時ですよ(^^;)。
    そしてその練習の中で、年に一二回でしょうか、引っ張る時もあります(^^;)。
    ○○さん、ご免なさい(^^;)。

     

    どんなレベルの視覚障害者ランナーでも、自分の走りをしたいと考えている事は間違いないでしょう。自分が走るのですから(笑)。

    視覚障害者ランナーの皆さんもランニングに取り組む事を決意し走り始めた最初の頃は、大会に参加してもついついオーバーペースで走ってしまい 後半の走りがボロボロになって惨めな走りになるという体験も多かったかも知れませんね。
    私も最初の頃は良く同じような経験をして惨めになりました。

    それでも本人なりに考えて徐々にではありますが克服し素晴らしいレース展開が出来るようになり、ペース配分などでは一定の自信がついてきたり、 走りながら自分の余力を見極めながら先を読めるようになっていくようになります。

    そんな自信溢れるランナーに成長したにもかかわらず、相変わらず伴走者からさらにペースの上げ下げの指示が煩雑にあったり、ライバルとの競り 合いの中で前に出ましょうとか、ここは押さえた方が良いですよなどと本人の頭で考えているレース展開と相容れないような指示が多くなってくれ ば、余り嬉しい事ではありませんね。

    どれほどに一緒に練習している間柄であっても、視覚障害者ランナーの大会当日の体調を完璧に把握出来るはずもありませんし、今日のレースに賭 ける心意気も全てを伴走者に伝え得るはずもありませんから、伴走者の思惑通りのレース展開が出来るはずもありません。

    視覚障害者ランナーの中には、「もう全て伴走者にお任せ、何でも言ってください。出来る限りその様にやります」なんていう方もいらっしゃるか も知れませんが(^^;)。
    居ないかな(^^;)。

    それから、視覚障害者ランナーが関わる会話などで、レース中に於いて視覚障害者ランナーを引っ張って走ったので目標通りに走る事が出来たとか、 「○○さんに引っ張られた、苦しかったけど頑張って走ったから制限時間に間に合いました」などといった発言がたまにではありますが登場します。

    この様な事こそが、主客が逆転している典型ではないでしょうか。
    これらの会話が冗談半分ではなく、本気でそう思ったとしたなら、そういうのを薬物ではなく人間に依拠したドーピングと言います(笑)。

    引っ張られて頑張って、制限時間内に走れたとか念願だった自己記録の更新の目標を果たす事が出来たとしても、それは本人の走力に基づいた真の 価値のある記録でしょうか?。
    視覚障害者ランナーは走り終えた後で、伴走者の手を握り喜びと伴走への感謝を表明する事でしょう、例外なく。
    しかし、家に帰り着いて落ち着いてから本当の喜びが沸き上がって来るでしょうか、そしてランナー仲間などに自信を持って自己記録更新の報告が 出来るでしょうか(^^;)。

    長くペアを組み、一緒に苦しい練習に耐え共に汗を流して走りを重ね、レースに出ては共に喜びそして共に悔しい思いもして次のレースでの対応と より多くの練習を重ねようなどと決意したりのつき合いが続いたなら、そこには兄弟愛的な友情も生まれ得るでしょう。
    そして一緒にビールでも飲みながら、走る喜びや楽しさを語り合ったり、どうしたら勝てるかとか会話も尽きない関係になっていくと思いますね。

    ですから、つき合いが深まるほどに伴走者としては、より速く走ってもらいたいが故に視覚障害者ランナーの走りに関与したくなる気持ちも痛いほ ど解ります。
    しかし、その燃える思いや(^^;)考え方も実際の取り組みも練習までで止めておくのが、真の対等な関係構築につながるのではないでしょうか。

    前に書きましたが、私も練習では時として視覚障害者ランナーに速く走れるようになってもらいたいが故に過激な言葉が口から飛び出してしまいま すが、練習だからこそと割り切った考えで対応しています(^^;)。
    ですから、私自身も練習とレースでの対応の差の大きさに驚いています(笑)。

    私達は伴走者という名の元に、視覚障害者ランナーの走りに大きく関与していますが、私が考えるところの伴走のプロと呼ぶに相応しい対応は、少 なくともレースに対してはあれもこれも視覚障害者ランナーの管理を請け負うのではなく、純粋に目の役割のみを引き受け、自分達の走りの状況や ライバルとの位置関係、入賞などがかかっている場合はその戦況などを刻々と視覚障害者ランナーに伝える仕事のみに専念する伴走者こそがプロと 呼ぶに相応しいと考えますが、皆さんは如何お考えでしょうか?。

    さあ、意見は割れてきました(笑)。
    どうですか?視覚障害者ランナーの皆さん。
    練習や大会参加に於いてどこまで伴走者の指示に従いますか?
    どこまでの管理なら許せますか?

     

  • 2,ボランティア活動としての伴走

    この項目は余り割れないと思います(^^;)。

    伴走はボランティア活動か、それともボランティア活動ではないといえるか?。
    どちらでも良いではないかとお叱りを受けそうですが、そう言わずに少しだけお付き合い下さい(^^;)。
    少なくとも仕事でない事は明らかですね、報酬がないのですから。

    ボランティア活動ではないと考えていらっしゃる方々の中には、否定しているのではなく、とてもそんな生ぬるい関係ではなく、もっと深く関わっ た関係に持っていかないと伴走などは出来ないと考えているのかも知れません。
    マラソン大会などに参加する事による金銭的な持ち出しなどもそうでしょうが、時間的にも深く関与している方は毎週日曜日に視覚障害者ランナー の伴走やレース参加や応援などに時間を割いているという方も少なくありませんね。
    実際私の周りにも視覚障害者ランナーのサポートの為に熱心に活動を展開していらっしゃる方々が何人かいらっしゃいます。

    お金を出して物を買うとか、お金を出して各種サービスを受けるといった事であれば、需要と供給の関係はスッキリとしており、必要のない時に声 が掛かっても「今は要らない」とか「それ以上のサービスは結構ですよ」と断ればよいわけです。
    必要なときのみ対応してもらえば良いわけですので両者の関係は一方通行ではありますが円滑に物事は進みます。

    ボランティア活動は、金銭の授受はありませんが、ないが故に両者の関係が時により供給過剰になったり供給不足になったりと両者の円満な関係を 損ねるような事態が展開する可能性もあることも否定出来ませんね。
    その供給過剰というのは、単に対応する人が多すぎるといった事も当然含んでいますが、精神的な過剰の関与といった事も含めて良いと思いますね (^^;)。
    逆に不足気味な事態とは、対応してくれる人がなかなか現れなかったり、そして現れても満足のいく対応をしてくれなかったり、希望するレベルの 対応が得られなかったりですね。

    視覚障害者ランナーの中にも当然のように走る事に対していろいろな考えを持って取り組んでいらっしゃる方々がいるわけですね。
    たいがいは今よりは速く走れるようになってみたいと考えているでしょうが、中には速く走れるようになるよりも、楽しく走れれば良いとか、走る 事を通してお友達をたくさん作りたいとか、もう少し痩せたい為に走ると考える方もいらっしゃるはずですね。

    少し痩せたいから走っているという視覚障害者ランナーに、如何に練習したならタイムを短縮出来ると熱心に説明してもあまり喜ばれないかもしれ ませんね。
    視覚障害者ランナーにしてみればせっかく熱心にサポートして頂いているのにその割には必要なものを手に入れる事が出来ないと不満を感じている かもしれません。

    前項目で、視覚障害者ランナーを引っ張る伴走者がいると書きましたが、それも視覚障害者ランナーが要請したのでない限りに於いて、本人が必要 としているレベル以上の供給を受けている或いは必要以上の過剰な応対を受けていると感じてしまい、伴走者自身は善意の思いでやっている行動も 快く思ってくれないかもしれませんね。

    もう一つの例として、ボランティア活動なのだから、より豊かに潤沢に対応しておけば満足して頂けるのではないかと思うのも生じやすい誤解の一 つですね。
    コーヒーに二杯の砂糖を入れると美味しく飲めるという習慣がある人に、砂糖は美味しいですからもっとたくさん入れたらどうですかと薦めても、 心から受け入れては頂けません。

    視覚障害者ランナーがどのレベルの対応を期待しているか、どれだけのボリュームの対応を要請しているかなどを見極めるのはなかなか難しいとこ ろではあります。
    対応している私達も、対応のレベルが適切であったかどうかを振り返ってみた時に、その判定は難しいものがあると感じますね。

    私もボランティア活動に関心がある方ではないかと考えていますが、考えてみますと、私も人生の中でボランティアを受け入れた側の経験は一度も ありません。

    とかくボランティア活動は与える側の論理で進みやすいと指摘される事も多いですね。
    受け入れ側はどちらかと申しますと、弱者的な立場の方が多いわけですので、“善意”という錦の御旗を掲げたボランティアの方々に思っている感 情を素直に表現するのは勇気の要る事でしょう。

    私の考えをここで書かせて頂きますと、次のような言葉を自戒を込めて念頭におきながら行動しています。

    「ボランティア活動をするに際しては、積極的すぎず消極的すぎず、空気の様に対応する」
    という表現になります。

    このような、まるで空気のように相手に意識されない程に寄り添って相手が必要を感じた時にはいつでも自然に対応出来るという関係でいられるな らば、これ程素晴らしい関係はないでしょう。

    その様な理想的な関係を築くのは神業に近い予知能力を必要としますが、過剰な対応をしすぎていないか、逆にもう少し深く関わって欲しいと願っ ていないか、常にこの点を心に留めてボランティア活動を進めていくならば、大きく道を逸れてしまう事はないのではないかと考えます。
    特に十分に注意を要するのは過剰な関与、或いは過剰なサービスの提供だと私は考えます。

    ボランティア活動は、サービスを提供する側と受け入れる側とは対等である事が最も理想であるわけですからね。
    私にとりましても一日は24時間しかありませんので、なかなか理想通りに事を進めるのもままなりませんが、基本的な考え方は何時も念頭におい て行動するように努めています。

    皆さんはどのようにボランティア活動を捉えていらっしゃるでしょうか?。
    又、“目”以外の“伴走”もやろうとしているといった事はありませんか?(^^;)。
    視覚障害者ランナーの皆さんもいろんな要望を、出来る限り言葉で表明していますか?。

     

  • 3,サブ伴走の制限などのフェアなルール作り

    「競争をするからにはフェアに戦いたい」と思うのは誰でも同じでしょうが、ここではサブ伴走について論じてみたいと思います。
    世の中の法規制も同じですが社会の現実の流れになかなか追いついていきません。
    視覚障害者ランナーの伴走に於いてもよりしっかりとしたルール作りが必要になって来つつあります。

    視覚障害者ランナーのB1・B2・B3などの振り分けや認定なども現時点では世界基準や国内に於ける基準や関連団体による設定などでかなり バラバラな印象をぬぐえません。
    戸惑うのは視覚障害者ランナー自身ですので、国内大会でも世界的大会でも同じ様な基準で対応出来るように願いたいところですが、これは大き な組織として解決しなければならない問題でもありますのでこの事については次回にゆずるとして、ここではもっと身近な場面に於けるサブ伴走 について問題を提起したいと思います。

    フルマラソンという長い距離を伴走するに際しては、視覚障害者ランナーのトップレベルの選手を伴走するとなると、一人で全て伴走出来るラン ナーは国内を見渡してもかなり限られた人数に絞られてしまいます(^^;)。
    視覚障害者ランナーよりも少しだけ速く走れるといった程度の伴走者では、途中で先に潰れるリスクは高いものになってしまいます。
    ですからフルマラソンを半分に分けて前半と後半に分けて伴走するのは実に合理的な発想でありますし、半分だけなら対応可能な伴走者の数は飛 躍的に増える事でしょう。

    伴走者にとりましては先に潰れるというリスクも少なくなり安心して伴走に名乗りを上げる事が出来ます。
    視覚障害者ランナーに取りましても伴走者が先に潰れるリスクも無くなるという事で安心できるし、対応する伴走者が増えてくれると感じたりで 速く走る視覚障害者ランナーほどその事については高く評価してくれるのではないかと思いますね。
    このように、伴走をリレーしていく事は何ら問題ないのですが(競技規則でも、4人までの伴走交代を認めています)、ここで問題を提起したい のは、サブ伴走者という存在です。

    例えば、「ロープを持つ伴走者と給水を取って視覚障害者ランナーに渡す伴走者の二人で伴走をやりましょう」という話になれば、それは良い話 だという気分になるのは私だけではないと思いますね(^^;)。
    実際の大会でも、複数の伴走者で視覚障害者ランナーをサポートしているのを見かけたりしますね。

    ロープを握る伴走者にとりましても楽チンですよ(^o^)、給水の時テーブルに寄っていって一生懸命にコップをつかむ必要もないし真っ直ぐ進むだ けですからね。
    視覚障害者ランナーに取りまして最大のメリットは給水(給食)によるペースダウンがほとんど無いという事ですね。

    このペースダウンをしなくても済むというメリットは計り知れないものがあります。
    給水以外に給食も含めれば六回とか七回にも渡ってペースダウンをする事なく走りを進める事が出来れば、他のライバルとの戦いの中で断然有利 に立つことが出来るでしょう。

    更には、走路の安全を確保する為に、視覚障害者ランナーの少し前を走って、他の一般ランナーが視覚障害者ランナーの前に立ちふさがって来そ うな場合に、「すいません視覚障害者ランナーが走って来ますので横に逸れて頂けますでしょうか」と声をかけて走る直進走路を確保する事が専 門の伴走者の登場です(笑)。

    これも視覚障害者ランナーにとりましてはメリットのある話ですよ(^^;)。
    何しろ他の選手を避けて左右に逸れる必要はなく、一直線に前進するだけですので良いのですから(笑)。
    これによる効果は絶大ですよ。

    もちろん伴走者にとっても楽チンですよね。横への移動が無いのですからね(^o^)。

    更には、ビッグな大会になればなるほど、ぜひ入賞したいなと考えたりしますね。
    もちろんライバルにも絶対勝ちたいなどと考えたりします。

    伴走者が後ろを振り返りながら、後ろを走るライバルの差はどれくらいあるかなと確認したり、走りの様子はどうかな、息づかいはどうなってい るかなとかを確認するのは結構しんどいですよね。何回も何回も後ろを振り返ったりするわけにもいきません。
    前の伴走のやり方などで書きましたが、後ろを振り返ったりする事によりロープが動いて視覚障害者ランナーの走りにも悪影響を与えることもあ りますので、そう頻繁に後ろを振り返るのも考えなければなりませんね。
    そんな事もありライバルの走りのチェックを専門にする伴走者の登場です(笑)。
    スタート直後から目を光らせ、ライバルのペースや息づかいを逐次報告してくれたなら戦略的な対策も立てやすくなりますね(笑)。
    ライバルの息づかいが荒くなってきたので、「もうすぐライバルはペースダウンするかも知れない」なんて報告が入れば嬉しくなってしまいます、 ヤッターなんて(^o^)。
    結果としてライバルよりも有利な立場に立つことが出来るかも知れませんね。

    これ以外にも、最短コースを教えてくれるのを専門とする伴走者や路面の窪みやワダチなどの危険箇所を専門に教えてくれる伴走者、ラップ・ス プリットタイムを管理してくれる伴走者、ペットボトルに水を入れて持ちながら走り視覚障害者ランナーが「暑いから頭から水をかけてくれ」と 言ったら頭から水をかける事が専門の伴走者‥‥‥‥などなど(笑)。

    視覚障害者ランナーの周りを十人ぐらいの専業伴走者でぐるりと取り囲みガッチリとサポートして走りを進めたなら如何でしょうか?。
    伴走をやっている私としても一度はやってみたい伴走軍団ではありますが(笑)。

     

    ここで問題を提起します!!
    もしも、パラリンピック出場が懸かっているような最も重要な大会である福知山マラソンパラリンピック選考会において、こちらは一人で伴走、 ライバルは二人で終始伴走した、或いは後半のみ二人で伴走したという時の結果に於いて‥‥‥。

    レースの途中熾烈な戦いを展開してゴールになだれ込んだ結果が、ライバルに3分30秒余りの差で負けたのなら私は何も言わず視覚障害者ラン ナーと共に涙を流します。
    これは約束します(笑)。

    しかし、そのタイム差が15秒ほどの僅差で負けてしまったとなったら、私は直ちに不公平な競争が行われたと選考委員会にクレームをつけます ね(^^;)。
    もう一度、一人対一人の伴走者で勝負せよと(笑)。

    如何でしょうか?、なるほどと思われる方もいらっしゃるかも知れませんね(^^;)。

    又、安全の為に複数の伴走者を配置するというケースや考え方も見うけられますが、“安全”と“利益”の境界は曖昧になりやすいと思いますね。

    盲人マラソン競技規則が十分に周知徹底されていない現状では、上記のようなレース後の問題提起も十分に起こりうる問題と捉えて頂きたいと思い ますね。

    一般的な市民マラソン大会とか地方のローカルな大会などでは、あまりうるさく伴走ルールを適用するのはどうかと思いますが、最も重要な福知山 マラソン大会パラリンピック選考会などでは如何に公平な伴走を行うかについてもう少し議論があって良いと思いますね。
    JBMA主催の小田原大会などで、伴走ルールの適正な運用を周知させるのに利用したら如何でしょうか?。

    このように、いずれは伴走に対しても大会によってはフェアな条件で競争出来るようにルール作りを急がねばなりませんね。 そして次のようなケースにも検討が必要です。

    公式な伴走者は一人となっていますが、一般選手として参加して視覚障害者ランナーに寄り添うように走りながら上記のような一つの役割を分担し て走りを進めるといったケースも現在のレースで見うけられます。
    そのような事も含めて、仔細に検討しなければなりませんね。

    特に熾烈な競争が展開され、僅差での決着になりそうな次回の福知山マラソンに於ける選考会としての競技の場でも、間違っても後から競技結果に 対する異議申し立て等が発せられる事のないように、担当部署の方々には十分な協議をお願いしたいものですね。

     

 

第四章 伴走技術更なる向上を目指して

より優れた伴走をする為に

私も視覚障害者ランナーの伴走を始めてすでに12年以上の歳月が流れていますが、伴走をしている時に「なるほど、そうだったのか」とか「そう か、こういう風に対応すれば良かったのか」などと新たな手法に巡り会うことが出来て嬉しい気分になる事が今でも時々あります。
そして、前にも書きましたが今でも最適な“伴走用語”を探しているという事もありまして、“これは使える”と思えるようなすばらしい用語がフッ と見つかったときなどは本当に嬉しくなってしまいます。

それほどに探求すればするほど視覚障害者ランナーの伴走とは奥が深く、もう伴走のやり方も完成したなどと思える日は永遠に来ないと思えるほど ですね。

ですから、私達は年間を通して数え切れないほど伴走をするランナーであっても、視覚障害者ランナーの伴走をする為にスタートラインに立つ時は、 常に初心に戻って素直な気持ちでスタートするように努めねばなりません。
慢心してしまうと、新たな発見は無くなりますよ(^^;)。
そして長く伴走をやっていても、上手くできたなと嬉しい気持ちになり満足に思うレースもありますが、たまに失敗してしまったと悔やまれるレー スも当然あります。

中でも、失敗という印象でレースを終えるなどという事態は伴走初心者ほど経験をしてしまう事になりますし、どうしてあのような流れになってし まうのだろうと首をかしげてしまう事も時々発生してしまいますね。
私も最初の頃はよくありました(^^;)。

そのような場合に於いて、上手く伴走をやろうとしても納得のいくように出来なかったり、なかなか解決策が見つからない時には次の三項目をよく 考え、掘り下げてみることをお勧めいたします。

1,伴走の原点に返る
2,自分で自分の伴走を観察し評価をする習慣をつける
3,走力的レベル・走る目標レベルを合わせる

それでは、この三項目を個別に解説させて頂きます。

 

  • 1,伴走の原点に帰る

    伴走を始めて間もない方でどうしても伴走のやり方について今ひとつしっくりしないとお感じの方や、長く続けてはいるが伴走について自信が持 てずちょっとスランプに陥っているかなと感ずる方々もいらっしゃるかも知れません。
    直ぐには良い解決策が見あたらずしばらくは試行錯誤を繰り返したりで苦悩する事が続いたりしてしまう場合がありますね。
    そんな時でも投げる事なく、打開策を見つけられるまで辛抱強く取り組む必要がありますよ。
    伴走についてのどのようなレベルの問題点や課題であっても、最終的には “自分が視覚障害者ランナーだったらどのように伴走してもらいたいか” を考え続けるべきです。
    必ずや解決の糸口がつかめると思いますね。

    世の中の物事の全てがそうであるように、大きな壁に突き当たったなら “伴走の原点に返る” 事によって必ずや道は開かれると信じます。

     

  • 2,自分で自分の伴走を観察し評価する習慣をつける

    より良い伴走をする為には、現状で満足する事なく改善点を見つける努力をして修正していくことは常に続けなければなりませんね。
    その過程に於いて伴走者なら誰でもそうでしょうが、「自分の伴走を視覚障害者ランナーはどのように受け止め評価しているのだろうか」という 点は気になって来るものです。

    その成り行きとして自分の伴走の仕事の成果を一番よく知っている視覚障害者ランナーに聞く事が一番正しい答えを得られると思うのも自然な流 れではないでしょうか。
    私も伴走を始めた頃は、身近に教えてくれる人もなく尋ねるあてもないという環境でしたので、視覚障害者ランナーに「今日の私の伴走は如何で したでしょうか?」などとレースが終わるたびによく聞いたものです(^^;)。

    最初の頃は、答える視覚障害者ランナーの話しに「ああそのやり方が良いですか」とか「今度はその方法でやってみます」等々伴走のやり方に対 するレベルアップに貢献するような会話が出来たことは間違いのないところですので感謝していますが、そのうちに 伴走への意見を語ってもら えてはいるのですが、どうも小出ししている感じで核心の本音は語っていないのではないかと思えるようになりました。

    「どうしてもっと真実の評価をしてくれないのですかと」と問いただす事も出来ません。

    何故なら、仮に私が視覚障害者ランナーであるとして胸に手を当ててよくよく考えてみればその答えは明らかでしょう。
    伴走者のプライドを大きく損ねるような真の評価を口に出来るでしょうか、私にはとても出来そうにありませんが(^^;)。

    視覚障害者ランナーは、目が見えないというハンディを抱え、人生のあらゆる場面で少なからず辛酸をなめながら生活空間を広げ、自立していっ た人達なのです。
    そんな苦難な生活の中で、“人の心の痛みを我が心の痛みとする”ほどの優しさが身についていった人達なのです。
    どうして善意で伴走を申し出ている私達のプライドを地に落とすような事を口に出来るというのでしょうか。

    もちろん表面的な差し障りのない論評はして頂けるでしょうが、私達伴走者は視覚障害者ランナーから真の正しい評価、適正な改善点の核心を語っ てもらうことを期待してはなりません。

    では、どうすれば良いのか?
    答えは “自分で自分の伴走を客観的に観察し評価する習慣をつける” という事をお勧めいたします。
    それにはまず自分の伴走について詳しく知らなければなりませんね。
    漠然と伴走をやっている方はいないでしょうか?
    今日の大会は何度も参加しているから楽勝だなんて考えたり、今日の視覚障害者ランナーとは何十回となく一緒に走っているといった理由で、漫 然とロープをつないでいるといった事はないでしょうか?

    当然の事ながら、伴走とは工場で作る工業製品と違い、同じ環境で同じように伴走が出来たなどという事は絶対にありません。
    何十年伴走をやっているベテランであろうとも、今日の自分のロープさばきによる視覚障害者ランナーの反応は、今日の自分の伴走行為に反応し たのであって、今日の今が初めてのものです。

    何時の日も、何時の時も自分の伴走に注意を払いよく観察する事です。
    そして自分の伴走行為に視覚障害者ランナーはどのように反応したか、その関連性をよく観察する事です。

    その観察に注意を払い続けるならば、必ずや今まで意識しなかった部分に対し、見えてくるものがあるはずです。
    その繰り返しをずっと続けていけば、継続は力なりとの言葉通り、より素晴らしい伴走が出来るようになるでしょう。

     

  • 3,走力的レベル・走る目標レベルを合わせる

    何を基準にして素晴らしい伴走でしたと評価するかは、非常に意見の割れる事柄ではあります。

    もちろん最も大切な事と言えば、視覚障害者ランナーが安心して走りを任せられると感ずる伴走である事は疑う余地はありません。
    そして私達伴走者が視覚障害者ランナーの目となりキッチリ目としての情報を伝え得るノウハウを持っていなければならない事も明白です。
    そして更には、より良い伴走者となる為にもう一つの要件を付け加えて頂きたいと思のです。

    それが項目名にも書いた、“視覚障害者ランナーの走力的レベル・走る目標レベルに私達伴走者の意識を合わせる”という言葉です。
    それは、私達伴走者から視覚障害者ランナーの今正にスタートする時の走力レベル、そして走る目標レベルに近づいて同一化する事を意味して います。
    この言葉が私の頭の中で浮かび上がった経緯は次のような流れです。

    私も過去に伴走が上手くできない事に苦悩してスランプに陥っている時に、フッと思いついたのが次の言葉でした。
    “伴走をしてやるのではなく、視覚障害者ランナーと同じ気持ちで走ったらどうだろうか”
    この言葉を思いついた事により、それが私にとりまして大きな転機となり伴走スランプから脱出出来たという経緯が過去にあるわけですが、それ 以降ずいぶんと伴走が客観的に見えるようになりました。

    それを実現する為の具体的目標が、
    “視覚障害者ランナーの走力的レベル・走る目標レベルに意識を合わせる”という言葉につながっていきました。
    私が伴走をする時に最も重視して心がけている要件がこれです。
    スタート前の私の頭の中は、この合わせる事に一心に集中しているといっても過言ではありません。

    この言葉に気付くまでは、かなりの独りよがりの伴走をしていた事は間違いのないところです。
    自己満足の独善的な伴走者であったわけですね。
    自分の“伴走方式”に視覚障害者ランナーが従う事を求めていた節がありました、今振り返ってみますと(^^;)。

    視覚障害者ランナーよりも断トツに速い走力を持つ伴走者がいらっしゃるとします。
    それは必須の要件ではありますが、意識の上に於いてこの速い走者が、速いまま或いは大きな走力差のまま遅い視覚障害者ランナーの伴走をする という皮相的な関係のみであっては、走りの最中の視覚障害者ランナーの微かに聞こえる息づかいによる変化に対応した微妙な伴走とサポートは 多くを望む事は出来ないのではないでしょうか。

    このレポートの11ページの所でも書きましたがもう一度書きますと、

    “伴走は視覚障害者ランナーの「目の代わりをする」のではなく「目になる」事が大切です”

    という表現でした。
    意識の上に於いて大きな走力差がそのままであるような、皮相的な伴走ではどうしても「目の代わりをする」レベル の伴走になってしまいがちであり、もっと深く踏み込んで伴走者として対応する為には、視覚障害者ランナーの「目になる」必要があるのです。

    その為には、“視覚障害者ランナーの走力的レベル・走る目標レベルに意識を合わせる” 事がまず必須の要件となって来ると思うのです。

    自分の心を無にして、相手の精神的レベル、体力的レベルと同じになれば、語らなければならない言葉や、伝えなければならない情報は、“考えなくとも自然と口をついて出てくる” というのが、体験から得られた私の確信です。

     

    以上が “より優れた伴走をする為に” 必要と思われる考え方を三項目書かせて頂きました。
    私達伴走者は、昨日よりは今日、今日よりは明日の方が上手く伴走出来たと思えるような、そんな進歩が伴う伴走が出来たら素晴らしい事ですね。

    その結果として、視覚障害者ランナーはより多くの “安心感” を脳裏いっぱいに感じながら、安心し気持ちよく走る事が出来るというわけです。

    視覚障害者ランナーの、その胸の中いっぱいに広がっている“安心感”を私達伴走者は外から見る事は出来ませんが、胸の中いっぱいに広がって いる事を想像するだけでも私達も同じように喜びが広がってくるのではないでしょうか。
    期待にしっかりと応えているという満足感と共に(^o^)。

    私にも、毎週のように視覚障害者ランナーからの伴走の依頼が届いています!!
    サア 初心を忘れず明日からの伴走でも精神をしっかり集中して、そして楽しく取り組む事にしよう(^o^)。

     

いよいよ最後になりました

多くの方々と伴走について語り合い、膨大な伴走ノウハウを分析し書面化していく事により多くの方々が均一化された伴走ノウハウを取得出来る可 能性が高まります。
そして均一化された伴走ノウハウで、多くの視覚障害者ランナーに安心して走って頂けるようにするのがこれからの課題ですね。

「誰に伴走を依頼しても同じような伴走をしてくれるので安心だ」と言って頂けるようなシステム作りを目指していきたいですね。

最後になりましたが、ここに書き進めてまいりました私の超ユニークな伴走ノウハウも(^^;)、何百人といらっしゃる伴走者の中のある一人の伴走の やり方を解説したに過ぎません。

開示しました伴走ノウハウはあくまで、私個人が経験に基づいて採用している方式ですので、理想的な伴走ノウハウを書き連ねたわけではありませ ん(^^;)。

ここに掲載されている私の伴走手法を採用して頂けたなら、それはそれで大変に嬉しい事ではありますが、いずれにしましても皆様で試してみて改 良しながら御自分のノウハウとして育てて頂きますようお願いいたします。

このような形で皆さんが伴走ノウハウを公開しあってより良い形にまとめ上げていければ素晴らしい事ですね。

 

さあ、これで全て書くべき事は書き終えました。あ~~スッキリした(^o^)。
読んで下さった皆様にとりましては、私の伴走のやり方には、プッと吹き出してしまうようなやり方も含まれていたかもしれません(笑)。

それはそれでお笑いの対象にして頂いて結構ですが、この長い文章を読み返してみますと細かい数字や同じような文章が並んでいて、書いた本人も 最後まで読み通すのに忍耐が要りました(^^;)。
そのような状況ですので、最後まで読んで下さった方々には本当に心からお礼申し上げます。
直接お礼の電話を入れても良いような気分です(笑)。
まとまりのない文章を最後まで読んで下さりありがとうございました(^o^)。

それでは、皆様にとりましても視覚障害者ランナーの伴走を通じて走る喜びや楽しさを分かち合い、そして伴走を含む社会貢献への取り組みが益々 充実されます事を心よりお祈り申し上げます。
またどこかのマラソン大会でお会いしたら声をかけ合いましょう(^o^)。

 

 

編集後記

このレポートを書き始める段階では、A4用紙で20枚書くことが目標だったのです、学生時代を含めて10枚を越えて作文を書いた事がなかった ものですから(笑)。
20枚書いたならレポートと呼ぶに相応しいボリュームになるなと(^^;)。
書き終えてみれば、101枚(執筆原文)にも達していました(^o^)。

書き始めてみますと、頭の中にあるノウハウを文書化するのは意外に楽だなというのが実感でした、調べものがほとんどないのですから(^^;)。
ただ、人間の動作を言葉として表現する事の難しさも併せて実感出来ましたね。
執筆途中でロープとつながる手の動きなどをどのように表現したらよいかと、幾度となくペンが止まったものです。
そして、ロープさばきなどの項目では、申し訳ありませんがその微妙な動きなどが完全に文章で表現しきれていない事をここに告白せざるを得ま せん。
このレポートを書く事によりまして、文章で伴走ノウハウを解りやすく具体的にキッチリ書く事の難しさも知るに至りました。
そんな事もあり、将来的には伴走ビデオなるものが登場して映像にて伴走ノウハウを知ることとなる時代が来ることを予感させます(^^;)。
より解りやすく、容易に伴走ノウハウを学ぶ事が出来るかもしれませんからね。
それは少し先の話として、当面は書面での解説という事になるでしょう。

仕上がったこのレポートは、ちょっと個性の強い伴走のやり方が前面に出過ぎていますが、出来れば日本全国の伴走者の方々に読んで頂きたいと 願っています。
しかしながら、途中で書きましたように伴走ノウハウを平準化する事の難しさも身にしみて体験していますので、基本部分の“伴走ノウハウ”を どのような言葉で表現し、そして皆で同じ動きに統一化・均一化していくかはこれからの課題ですね。

世界で互角に戦える視覚障害者ランナーを育てたり、そこまでいかなくても家庭に閉じこもりがちになりやすい視覚障害者を楽しいランニングに 誘う事にしましても、伴走者も同時に育っていただく必要があります。
幸いに、ランニングを楽しまれているランナーの中で伴走を志す方が増えている事に喜びを感じますね。
若い人の中にも、伴走に限らず社会貢献を意識してボランティア活動に関心を持たれる方が増えているようです。
何時の時代も、“若さ”に期待したいですね(^o^)。

 

視覚障害者ランナーの伴走に関しては少しだけ先達である立場から、後に続く伴走を志される方々に何か役に立つ事は出来ないかと考え続けてい ました。

幸いと申しますか一寸先は闇と申しますか、昨今の不況により会社の仕事量が少なくなり残業も減りまして、その気になれば書く時間だけは十分 にあるという環境になりました。
財布は日々軽くなっていきますが(^^;)。

ここで思い切ってペンを取らないと次回のチャンスは何年先か解らないと思いまして決断を致しました(^o^)。
従いまして、不況でなければこのレポートは存在しなかったと思いますね(笑)。

妻は、「神様がこのレポートを書かかせる為に不況という環境にして時間を与えてくれたのよ」と励まし書くことを強く勧めてくれまして、完成 後の最初の読者になってくれると約束してくれました(^^;)。

というように苦難な(^^;)経緯で、ここに急遽伴走に関するレポートが完成をみました。

私にとりましてもかなりの時間を投入致しまして、机上でキーボードを叩き、通勤電車の中で更正を繰り返したりで大変でしたが、嬉しい事にメ リットもありました。
文書化する事により、頭の中で錯綜していた伴走ノウハウが系統立って整理出来たことですね。
何かスッキリとした気分です。
ノウハウが頭の引き出しに全部収まったので頭脳の空き空間が広がったのかも知れません(^^;)。

それはともかく、
最後の最後にレポートに登場しましたHさんについてチラッと一言(^^;)。
Hさんは実在の視覚障害者ランナーです(^o^)、今も現役で走っているんですよ。

私の伴走ノウハウの習得も彼と共にあったといっても過言ではありません。
彼の人となりは接してみれば解りますが、人当たりが良く穏やかで、そして気配りの行き届いた人で、周りに集まる人たちは、皆彼に親しみを感 じると話します。
実際に想像以上の伴走者や友人との交流がありまして、その輪の広さに驚かされる事があります。
人間的にも多くの事柄を彼と接して学ばせて頂きました。

視覚障害者ランナーとしても優れた走力を持ち、そして大きな目標を何時の時も探し求め、その目標を強く保持し続けて自分を奮い立たせようと する姿勢や、走りに対する取り組み方が“戦う”という競技志向ですので走りも挑戦的です。
当時は私も同じように走力的に伸び盛りでありましたし、私の走りへの取り組み方や競技志向的な走り方など合致する点が多く共感出来た事もあ りまして、伴走を通じて親しく交流させて頂きました。

そんな走る事に前向きに取り組み続けるHさんと、私は何も解らず手探りのような状況で伴走を始めた初期の頃から偶然とはいえ知り合えたのも ラッキーな出来事だったと感謝しています。
本当に当時の二人は記録が伸び盛りであった事も重なりまして、走る事に夢中で燃えていましたね(^o^)。
Hさんの背後には、いつも炎が見えていました(笑)。

 

Hさんに限らず、視覚障害者ランナーの方々と知り合えた事は、私の人生に於いて輝く宝石に巡り会えたような気持ちでいっぱいです。

目が見えないというハンディを乗り越えられた視覚障害者ランナーの皆さんと普通に会話をするだけで、多くの豊かな気持ちや寛容さ、優しさを 教えて頂きました。

“持たざるものが貧しいのではなく、心はいかようにも豊かに、そして優しくなれる”
という事を。

振り返ってみれば、
私の大好きなランニングを通して視覚障害者ランナーの皆さんの為に少しでも役に立てればとの本当に軽い気持ちで始めたこの伴走でありますが、 結果として私自身の心をも一回りも二回りも豊かにさせて頂きました。

伴走をすることにより戴きましたこの思いがけない “報酬” は、今使い切ってしまうのではなく私の晩年にこそ有効に使い、豊かな老後に彩りを 添えたいと考えています(笑)。

このレポートを書いたことに対し、読者の方々から賞賛があったとしたなら、かかる賞賛の全てはリボンのついた小箱に詰め替えて、関わって頂い た視覚障害者ランナーの方々にそのままプレゼントしたいというのが今の心境です。

全ての視覚障害者ランナーの皆様に感謝の気持ちを改めて表明したいと思います。
これからも皆さんの夢の実現に向けて、お手伝いをしていきたいと決意を新たにしているところですよ(^o^)。

最後に、私の視覚障害者ランナーの伴走を含めた走る事に対する取り組みに最大限の声援と機会を提供してくれている妻に、この場を借りて“あり がとう”の感謝の気持ちを心を込めて表明したいです。有り難うございました。(^o^)

 

視覚障害者ランナーの活躍に思いを馳せながら‥‥‥自宅にて  中澤修平

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